スピードの秘密
長崎氏は、さらなるAWSの特徴として、スピードを挙げた。2017年にローンチしたサービスや機能の数は1300以上、これについて、「お客さまが求めているものをいち早くサービスとして出すことにより、喜んでもらえる。このスピード感なくしては、お客さまのビジネスを支援できない」と説明する。
こうした背景には、Amazon本体の徹底した顧客中心主義が脈々と流れているようだ。「Amazonのビジネスは、インターネットで小売をすることから始まった。当時から"地球上で最もお客さまを大切にする"がミッションステートメント。すべての事業部において、お客さまにとって何が正しいのかを軸に行動・判断する」と長崎氏。だからこそ「お客さまの成功なくして、AWSの成功はない。クラウドは従来のITと異なり、売って終わりではない。続けて契約していただく必要がある。お使いいただいた時からずっと関係がつながっていく」という言葉は、真実味を帯びて響く。
長崎氏はもう1つ、親会社の影響として「Amazonは低コストで提供するための物流を作ってきたDNAがあり、このDNAでクラウドコンピューティング事業を始めたことはとても大きい」と語った。ここは競合との差別化につながっているようだ。
「クラウドビジネスは簡単ではなく、スケールが求められる。低コストを実現できる経営体質や仕組みが必要だが、これは一夜で作れるものではない。将来、残るクラウドベンダーは数社と予想している。AWSはその1社となるために、お客さまの声に一生懸命耳を傾け、必要なサービスをリリースし、足りない部分はどんどん改善していく」と緊張感を緩めない。
スピードや緊張感はスタートアップのマインドにも通じるが、人材戦略を聞いたところ、「パイオニア」と「ビルダー」がキーワードだという。パイオニアとは「道なきところに道を作る開拓者」、ビルダーとは「作る・構築する人」を指す。これは技術だけではなく、営業、サポート、マーケティングなど全ての職種において求められる要素だという。
だが、カルチャーの維持は簡単なことではない。「大企業病にならない仕組みがいくつかある」と長崎氏は述べ、できるだけ小さなチームを組むこと、プロジェクトに着手する前にプレスリリースを書くこと、などを例に挙げた。
プレスリリースについては、「お客さまが使っているシーンを想像し、何が嬉しいのかをあぶり出す。このプロセスがちゃんとできれば、開発に入って方向性がぶれても戻るところがある」と目的を説明した。「われわれのロードマップの9割以上が、顧客の声により変わる。これは官僚的組織だと実現できない」という。
2018年、クラウドの勢いはさらに加速
このようなスピード重視の一方で、長崎氏は「われわれはビジネスを短期で見ていない。3年から5年ぐらいの長期スパンで見ている」とも言う。
「サブスクリプションで、顧客が使う量を決めるビジネスであるクラウドは、四半期サイクルではうまくいかない。われわれはどうすれば安くなるかを常に提案しているが、これはお客さまの長期的なビジネスパートナーでありたいから」
実際、同社は2006年のサービス開始以来62回値下げをしているが、中長期で考えなければ値下げとビジネスのバランスは難しい。「スケールのビジネスなので、ある程度下げられると判断したら下げる。これは今後も続ける」と、長崎氏は述べた。
2018年もクラウド導入のトレンドは継続し、「雪崩を打って、さまざまな企業がクラウド戦略を本格化させる」と予想している。「AWSはその波に答えるためにあらゆる部署に人を配置して、日本のお客さまのクラウド導入、デジタル・トランスフォーメーションをしっかりお手伝いしたい」と長崎氏はいう。
最後に、「ITの世界は、オンプレからクラウドへの転換期にある。クラウドの浸透を成功させるには、単なる置き換えではなく使いこなすことが重要。これにより、本当のクラウドの力を享受いただける」と述べた。