2017年もあっという間に終わろうとしている。この1年間、航空業界も予測を超える大きな変化や事象が見られた。年末にあたりいくつかの2017年の特徴的な出来事の振り返りをしてみたいと思う。

  • 2017年8月に「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」の中間取りまとめが行われた。持続可能な地域航空に向けた抜本的な対策として、最大離陸重量15t以上のATR機の航行援助施設利用料の低廉化なども視野にしている

    2017年8月に「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」の中間取りまとめが行われた。持続可能な地域航空に向けた抜本的な対策として、最大離陸重量15t以上のATR機の航行援助施設利用料の低廉化なども視野にしている

自治体頼りな現状から脱却を

JALやANAのように全国各地に路線を展開している航空会社がある一方で、ある特定の地域に路線を貼る航空会社もある。各地に散在し地方市民の足を支える地域航空は、「需要規模の小ささ~小型・少数機材による運航~座席コストの上昇~運賃の高額化~需要の落ち込み(地域航空会社の経営不安定化)」という悪循環に陥る宿命を持つ。また、直近では長崎空港を拠点とするオリエンタルエアブリッジが12月9~10日、機材不具合での整備で欠航し、 ANAが臨時便で対応するということも起きている。

こうした問題を解決するべく、国交省は2016年6月に行政と有識者による「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」を設置。問題点の摘出と解決策の模索を行い、2017年8月に研究会が中間取りまとめを行った。

詳細は航空局ウェブサイト資料に委ねるが、「現状のままでは自治体補助金に頼る地域航空会社の経営は維持できなくなる」「これを打開するには各社間の協業は必須であり、それを支える国・地域による制度の整備が必要」としている。具体的には、「機材共同保有組織による運航機材管理の効率化~コスト削減」「持株会者による各地域航空会社の統合」「全社の合併・一体化」という選択肢を挙げ、功罪と実現可能性について分析を行っている。

これまでの研究会での議論の主眼は、「現在ある航空会社経営をどうするのか」の現実論を語る前に、「日本の地域航空はどのような形態で再整備されるべきか」というあるべき姿を模索・規定することに置かれている。「それを実現するために、JAL・ANAは本当に協力するのか」「九州沖縄の各社は、北海道内航空はどう再編成するのか」という問題は、これから最終取りまとめに向けての問題となっている。

航空局の当面の喫緊課題は九州

一方、国による研究会と並行して、業界・地方自治体(時に政治)には様々な動きが散見される。現在の構図は、地域離島ネットワークで後塵を拝するANAがその解消(対等化)を企図し、地域航空再編を命題とする航空局と積極的に本件の整備を進める一方、統合等によるメリットを強く感じず拙速に統合を進めるべきでないとの立場のJALとの距離が大きい。そのため、当局が「着陸点」の模索に動いている状況とされる。

  • 天草エアラインとオリエンタルエアブリッジの事業存続・安定化が目先の課題

    天草エアラインとオリエンタルエアブリッジの事業存続・安定化が目先の課題

現実論はこれからと言っても、航空局の当面の喫緊課題が九州(天草エアラインとオリエンタルエアブリッジの事業存続・安定化)にあることは想像に難くない。北海道7空港民営化での重要課題とされる「道内航空ネットワークの拡充」という拡大志向のテーマに行き着くには、程遠い状況にあるとも言える。

一方では、広域観光圏の整備と関連して新たな地域航空路線を模索する動き(中国地方、東北地方)や奄美での新会社設立などもある。事業性(新たなビジネスチャンス)、公共性(不採算だが必要なネットワーク)という異なる事業条件の中でそれぞれの解を見つけていかねばならない、という複雑な状況もある。

筆者としては、地域航空維持のための政策のあり方という切り口だけでなく、「誰が事業リスクを負うのか、負わせるのか」「事業を維持するために必要なコストを誰が負担するのか」という問題を直視し、地域社会と支えあうような事業形態を生み出す視点で多くの議論が交わされ、少しでも事業運営の進化・工夫が生み出されることを期待したいし、またそれは可能ではないかと考える次第である。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。