神戸には様々な国の料理が集まる。その代表格に位置するのが中華料理だ。今回は中華料理店が軒を連ねる神戸・南京町にある餃子専門店を訪れた。その名も「元祖ぎょうざ苑」。餃子へのこだわりを探るべく、「元祖ぎょうざ苑」のドアを開けた。
満州で生まれ神戸で進化した餃子
「元祖ぎょうざ苑」は昭和26(1951)年創業の老舗。2017年で創業66周年を迎える。現在は3代目・頃末灯留さんが店を切り盛りする。「元祖ぎょうざ苑」のルーツは中国東北部、昔の満州にある。戦前、初代・頃末芳夫さんはビジネスで当時の満州に渡った。中国で日本食レストランを営んでいた頃末さんが目を付けたのが餃子だった。当時、日本には餃子専門店がなく、多くの料理人が国内で餃子作りにチャレンジした。
しかし、頃末灯留さんによると最初は「こけた」とのこと。中国では当たり前に作られていた水餃子は、「ご飯には合わない」という理由で日本人の支持を得られなかった。そこで、頃末さんを始め、多くの日本人は保存食であった焼餃子に注目した。焼餃子を出したところ、ご飯にマッチするという理由で日本人にウケた。なお、今でも生地の作り方も満州時代と同じスタイル。弾力のある生地のため、ヒダがないスマートな餃子だ。
そして、頃末さんはとある素材に着目。中国にはない味噌だ。当時、餃子のタレには黒酢と赤酢を合わせたものを使っていた。そこで、「味噌の方がうまい」という理由で味噌ダレを採用。この味噌ダレが、現在まで脈々と受け継がれている。
そのため、多くの店ではラー油などの他の素材を使っているが、「元祖ぎょうざ苑」ではラー油はなく味噌ダレが出る。「昔はラー油がないと怒ったお客さまもいた」と頃末さん。しかし、神戸の味噌ダレ餃子が認知され、現在は多くの食通が味噌ダレの餃子を求めて「元祖ぎょうざ苑」を訪れている。
神戸牛は主役ではなく隠し味に
伝統の重みがある「元祖ぎょうざ苑」の餃子だが、時代に応じて進化をとげている。2015年には、神戸の名産品である「神戸牛」をブレンド。神戸牛は日本に訪れたことがない外国人でも耳にしたことがある、日本を代表する高級食材だ。神戸牛が主役の餃子になるのかと思いきや、「元祖ぎょうざ苑」では神戸牛をジューシー感とコクを出すために、「調味料」として使っている。
神戸牛を多く入れすぎると、今までの味がガラッと変わってしまうという理由だ。神戸牛を用いる際は試行錯誤の連続だったとか。目指したのは「昔よりもちょっと良くなった餃子」だ。お客の反応を見ながら、「いつも通りおいしかったよ」の一言で、配合が決まった。まさしく、伝統の味が神戸の要素を取り入れる形でパワーアップした瞬間だった。
ご飯が進むコクのある味噌ダレ餃子
早速、餃子6個とご飯、スープが付いたお得なセット「定食」(税込650円)を注文。味噌ダレの餃子を堪能するために、小皿には味噌だけを用意した。
味噌ダレ餃子を口にした瞬間に感じたのは、ジューシーさと味噌のコクとの絶妙なマッチ感。味噌が餃子の味をうまく引き出している印象を受けた。もちろん、ご飯とのマッチングも絶妙。味噌ダレ餃子、ご飯の順にどんどんと食が進む。そして、あっさりとしたスープがいいアクセントになった。
ところで、もうひとつ気になったのが餃子のサイズだった。大きい餃子がある中で、とても食べやすいサイズになっている。頃末さんによると、餃子の大きさも66年前から変わっていないという。王道・伝統を忠実に歩む「元祖ぎょうざ苑」の姿勢に感服した。
次は全世界の人々が食べられる餃子を
最後に、今後の展開について聞いてみた。現在、頃末さんは国内初「野菜と植物だけの餃子」にチャレンジしている。「魔法の野菜餃子」作りの背景には、高齢化がある。創業66年だけに、昔からの常連客の中には医者から「肉禁止」のドクターストップを言い渡されている人もいる。そこで、「昔のように餃子を楽しんでほしい」という想いから、肉が入っていない餃子づくりがスタートした。
また、「魔法の野菜餃子」は世界を見ている。野菜だけの餃子が完成すると、宗教上の理由で肉が食べられない人やベジタリアンも餃子を楽しめるようになる。つまり、全世界の人々が餃子を味わうことができるのだ。
しかも、「魔法の野菜餃子」の味は通常の餃子とほぼ同じだという。この「魔法の野菜餃子」が新たな餃子の伝統をつくるのだろう。次回の訪問を楽しみにしながら、小雨が降る中華街を後にした。
●information
元祖ぎょうざ苑
住所: 兵庫県神戸市中央区栄町通2-8-11
アクセス: JR元町駅/阪神元町駅より徒歩5分
営業時間: 11:45~15:00(L.O.)/17:00~20:30(L.O)閉店は21:00
定休日: 月曜日(祝日の場合は振替)