『陸王』(TBS系)が最終回で待望の視聴率20%超えを果たし、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)の最終回も歴代最高の総合視聴率35.2%をマーク。その内容も数字も文句なしのハッピーエンドを飾って、2017年の連続ドラマが全て終了した。
今年は昨秋の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のような社会現象となるヒット作こそなかったものの、全体としては昨年を上回る高水準。ネット上に「続編が見たい」「◯◯ロス」などの声が飛び交うなど、熱狂的なファンの多い作品が目立った。
ここでは「朝ドラから昼ドラ、夜ドラ、深夜ドラマまで、全ての連ドラを視聴している」ドラマ解説者の木村隆志が、一年を振り返るべく、「業界のしがらみや視聴率は一切無視」して、独断でTOP10を選んでいく。
※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。
▼10位 洗練とアホを極めたVR的演出が光る『さぼリーマン甘太朗』(テレビ東京系)
ある意味、今年最大の掘り出し物と言っていいだろう。深夜1時に「ここまでやるか?」というほど甘味を見せつけられるが、まったく胃もたれしないから不思議。鯛焼き、白玉、かき氷、チョコレートなどの甘味を映し出す演出が、笑ってしまうくらいスタイリッシュなのだ。
たとえば、ハイスピードカメラで映した蜜やホイップクリームは芸術作品のようであり、それを食べた甘太朗の感情表現は、さらに異次元。喜びの表現として蜜を頭からかぶるなどの妄想をVFXで映像化していた。つまりは悪ふざけと紙一重の誇張なのだが、あくまで美しさを忘れないのがこの作品らしさであり、最後まで貫かれた。
主人公の甘太朗を演じた尾上松也は、「敢闘賞」をあげたいほどの熱演。というより、顔面神経をフル活用し、1ミリの羞恥心も感じさせない役作りに感動させられた。そんな松也を見て頭をかすめたのは、「ポスト香川照之では?」。TBSの日曜劇場で敵役を演じさせたら、今、松也以上に面白い存在はいない気がする。
ちなみに私は甘党ではないが、甘太朗の食べた甘味が食べたいし、すでに食べた気もする……そんなVR的な感覚が味わえる作品だった。
▼9位 湊かなえ作品のアップデートに成功。群像劇としても輝いた『リバース』(TBS系)
TBSの『金曜ドラマ』と湊かなえ作品の相性については、今さら言うまでもないだろう。当作は、事件の謎を追うミステリーと、主人公が危機にさらされるサスペンスだけでなく、群像劇の要素が加えられ、魅力を増していた。
さらに、藤原竜也、市原隼人、三浦貴大、玉森裕太らが演じた各キャラクターが、「過去の未熟さと保身を悔い、回を追うごとに顔つきが変わっていく」成長譚としての要素も大きい。結末もステレオタイプな悲劇や美談で終わらせず、原作にはない“その後”と“これから”を描いたことで、作品の質をワンランク上げた。
若さが引き起こした過去のほろ苦さ、現実と向き合うことでしか切り拓けない現在の苦境、生き続けることで見えた未来の希望……終始、連ドラらしい流れがあり、冒頭の衝撃から最後の余韻まで、視聴者をけん引した脚本・演出の工夫が光った。
そもそもここまで正統派の長編ミステリーは、年間数本程度のレアジャンルだけに、トライするだけで価値が高い。
▼8位 “静”の脚本・演出に徹した「NHKの良心」的芸術作『ツバキ文具店』(NHK)
その『リバース』の真裏で、ひっそり放送されていたのが『ツバキ文具店』。まさに、「ひっそり」という言葉がピッタリの内容で、物語は終始穏やかで、人々の心に寄り添うような優しさであふれていた。
ネットやアプリ全盛の中、なぜ手紙が必要なのか。その答えは、手紙をきっかけに心がほどかれていく登場人物の姿を見れば一目瞭然。代書屋をすることで成長していくヒロインに感情移入するのもいいし、悩みを抱える依頼人たちに心情を重ね合わせるものもいいだろう。
最大の見どころは、「映像の美しさなら今年1番」と思わせる黛りんたろう監督の繊細な演出。鎌倉という町の風景、何気ない日本家屋、部屋の家具、手紙を書くための道具……すべてがやわらかく、あたたかく、ノスタルジックでありながらもクールな美しさを感じさせた。
単純明快さを求める現代のテレビ視聴者には伝わりにくい作品だが、挑戦した価値はあったのではないか。いや、むしろ当作こそがNHKのドラマ制作意義のような気がする。
▼7位 ポップでブラックで面倒くさい変幻自在の会話劇『カルテット』(TBS系)
社会的ブームとなった『逃げるは恥だが役に立つ』の後枠として「プレッシャーがかかるのでは?」と思いきや、さにあらず。今思えば、脚本・坂元裕二、演出・プロデュース・土井裕泰のコンビに、それは失礼だったのかもしれない。
「大人の恋はやっかいだ」なんてコピーは、やはりフェイクに過ぎなかった。4人のポップでブラックで面倒くさいセリフの応酬は、恋をはるかに超える濃密な関係性を構築。坂元裕二のつむぐセリフで4人が繰り広げる演技合戦は、質の高い舞台を見ているようだった。演奏の音色やエンディング曲も含め、「目以上に耳で楽しむ」作品だったと言っていいだろう。
「ウソ」「秘密」「まさか」が生み出すサスペンスとヒューマン要素も織り込むなど多面的な作りで、つかみどころのない作風を貫徹。今では「どんな作品だったっけ?」という視聴者は多いのではないか。「ながら視聴」対策でシンプルさが優先される現在のテレビ業界において、特筆すべき制作姿勢であり、称賛を得るべき作品だった。
▼6位 シルバードラマを見事に開拓。倉本節が爆発した『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)
今年新設された『帯ドラマ劇場』のトップを飾るにふさわしいインパクトを残したが、最大の立役者は脚本家・倉本聰だろう。「老いる」ことをさまざまな角度から喜怒哀楽たっぷりに描いたほか、現在のテレビ業界や喫煙事情への私的な不満が爆発。石坂浩二ら名優が、固有名詞が特定できるほどハッキリ毒が盛られたセリフを放つ姿が爽快だった。
石坂は自分も気難しい性格ながら、周りの人々に振り回される高齢者をひょうひょうと演じていたが、その姿には充実感がありあり。最後の「樹は根に拠って立つ、されど根は人の目に触れず」というフレーズは、倉本の本音にほかならないが、はたしてテレビマンたちに響いたのか……。
放送中に亡くなった野際陽子さんの遺作となったが、最後に見せた仲間たちとの芝居は、永遠に視聴者の記憶に残るだろう。複数の意味で、長年語り継がれる作品になりそうだ。