こんにちは。私は相続を生業としている弁護士や税理士等の専門家で組織された協会、相続終活専門士協会の代表理事を務める江幡と申します。
相続対策と言えば、親が主体的に取り組むべきものと考えられがちですが、子供の側から親に対策を促すことも間違いではありません。そこで我々が考える年末年始だからこそこれだけは親にやってもらいたい相続対策を3カ条にまとめました。一つひとつ見てみましょう。
第一条:生命保険に入るべし
死亡保険金の非課税枠というものが500万×法定相続人数分あります。たとえば父母長男次男の4人家族の場合、死亡保険金の非課税枠は父なら500万×3(母・長男・次男)=1,500万円存在します。
父の現預金が1,500万円ある場合、そのままで父の相続が発生(要は父が死亡)すると相続財産は1,500万円であるが、「契約者=被保険者=父」の終身保険(死亡保障が一生涯続くのものを終身保険と言います)にしておけば1,500万円の死亡保険金は相続財産にはカウントされません。同じ1,500万円でも、現金だと相続税は1,500万円に関してかかってきますが、死亡保険金だと相続税ゼロという具合です。生命保険嫌いの人であっても最低、法定相続人×500万の終身保険には入っておくべきでしょう。
第二条:遺言書を書いてもらうべし
皆さまが一人っ子ではなく、ご兄弟がいれば兄弟間の争う族(あらそうぞく)を避けるために遺言書は書いてもらいたいところです。
なぜ、遺言があると争う族が避けられるのでしょうか? 相続発生時(要は親が死亡したとき)に、遺言がない場合、相続人間で被相続人の財産をどう分けるかという書類を作成します。そして相続人全員の自署押印をしたものが「遺産分割協議書」です。
これがないと「故人(亡くなった人のことですね)の銀行預金を引き出したり」「故人の車を売却」したり「不動産の名義変更」が出来ません。多くの方が遺言を用意していませんので、遺産分割協議書を作らざるを得ないのが現状です。ちなみに遺言を用意している人は約10%にとどまると言われています。
そして遺産分割協議書作成時に争う族が始まると我々は考えております。
例えば長男が多くを相続する内容の遺産分割で、長女がほとんど何ももらえない場合、「お兄ちゃんばかり相続してずるい! 私ももっと遺産ちょうだいよ。そんな内容(遺産分割協議書)だったらハンコ押さないよ! 」という具合です。当然、遺産分割協議書がまとまらなければ相続登記(不動産の名義変更)等が出来ませんので、他の相続人は困ってしまいます。これでは「ごね得」となってしまいます。このような争いをおこさないためにも遺言を生前にあらかじめ作成しておくということは非常に重要なわけです。
また逆を言うと「遺言があれば遺産分割協議書を作らなくてもよい」ということにもなります。つまり「遺言があればもめるリスクを大きく減じることができる」ということも言えます。また相続人が一人の場合は、遺産分割協議書を作る必要はありません。あくまで相続人が複数の場合のみ作成が必要となります。みなさんが一人っ子の場合、必要はありませんが、兄弟がいる場合、遺言はぜひとも親に書いてもらいたいところです。
なお、終活と言えば、エンディングノートというくらい代名詞になっていますが、これは遺言と異なり法的拘束力がありません。また、エンディングノートは多岐の分野にわたって書く必要があるため、実は完成させるまでが大変です。であれば、相続人が複数いる場合、遺産分割協議書を作成しないで済む(もめないで済む)のでぜひとも簡単でもいいので遺言をつくっていただいた方がいいと思います。
第三条:墓地や墓石、仏壇、仏具は親の生前に買い揃えておくべし
意外と知られていませんが、上記お墓や仏具は相続税がかからない非課税財産です。もし皆様の親御さんが上記の物をまだ準備していなければ買い揃えておくべきでしょう。たとえば、現金100万円をお父さんがお持ちだとします。
(相続税は財産の多寡に応じて税率が変わりますがここでは財産額が100万円増えた時に30%の税率で相続税がかかる範囲の財産を相続したと仮定します)
この100万円を相続税率30%で相続すると手元に残るお金は70万円です。そこから相続で得たお金で仏具を70万円で購入したとします。手元に残るのは0円と仏具です。
一方、お父さんは息子のアドバイスに従って、現金100万円を使って70万円の仏具を買います。その後、亡くなると30万円の現金に30%の相続税がかかり21万円手元に残ります。息子さんは仏具と21万円が残るわけです。これが非課税財産である墓地や墓石、仏壇、仏具を買った方がいい理由となるのです。
ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものは相続税がかかりますのでご注意ください。あくまで一般的なものを買い揃えておけば良いという話です。
以上3カ条を取り上げましたが、年末年始、家族が集まるいいタイミングですから上記3つのうち1つでもぜひ取り組んでもらいたいものです。しかし、相続の話は親が死ぬ話でもあります。簡単に親に言える問題でもないですし、それを機に揉める可能性も当然あります。よって、切り出すタイミングはそのご家庭ごとに違うと思います。ただ、3年前に実施された2015年の相続税の増税を親御さんがご存じであれば、「何か子供たちのためにやってあげないとなぁ」と考えていた場合、意外とスムーズに話が進むかもしれません。
また、相続税に関しては基礎控除額を超える部分(課税遺産総額)に対して課税されます。基礎控除内の方であれば上記のような節税をする必要がない場合もありますのでご注意ください。個別具体的な解釈については税理士等の専門家・行政機関等にご確認いただきますようお願いいたします。
■ 筆者プロフィール: 江幡吉昭(えばた・よしあき)
1999年大学卒業後、住友生命保険を経て、英スタンダードチャータード銀行に入行。最年少シニアマネージャーとして活躍する。2009年、資産家の税務・法務・財務・資産運用の専門家集団を束ねるファミリーオフィスを設立し、主に相続・事業承継等の問題を顧客側の視点で解決。
現在、株式会社アレース・ファミリーオフィス代表取締役、アレースグループ代表。また、相続の現場を通して「争族」を多数経験したことで、相続争いを回避するため一般社団法人相続終活専門士協会を設立。一般社団法人相続終活専門士協会代表理事。著書に『資産防衛の新常識』(幻冬舎刊)