2017年12月11日、博多発東京行「のぞみ34号」(JR西日本所有のN700系5000番代K5編成)で「焦げたような臭い」「車内にもやが発生」「床下から唸り音が発生」といったトラブルが発生した。当該列車は名古屋駅で運転打ち切りとなったが、その後の調査の結果、13号車(785-5505)の東京方台車で、台車枠に亀裂が生じていたことが判明した。
新幹線では初の「重大インシデント」に認定された今回の事案について、原因はまだ調査中であり、情報がそろっていない中で憶測を行うことは避ける。ここでは新幹線電車の台車の構造や、行われている検修の頻度・内容について解説したい。
車体の荷重は台車枠の横梁中央部にかかっている
台車とは、車輪と車軸を一体化した「輪軸」を「台車枠」と呼ばれる部材に取り付けたもので、それをバネ系を介して車体に組み付けている。台車と車体の間は回転できる構造になっているので、それによって曲線区間でも円滑に通過できる。
新幹線電車の台車は一般的な二軸台車、つまり前後2組の輪軸を使用するタイプで、台車枠はH型になっている。Hの字の上下方向がレール方向にあたり、左右の縦棒にあたる部分を「側梁」、横棒にあたる部分を「横梁」という(N700系の台車では横梁が2本ある)。
台車枠と車体の間には、左右にひとつずつ空気バネがある。しかし空気バネだけでは牽引力が伝わらないので、車体中心線上から台車の中に突き出すように部材をひとつ降ろして、それを「牽引リンク」と呼ばれる部材で台車枠の横梁とつないでいる。これが中央部に位置する関係で、横梁はその前後に分かれて2本構成になっている。
牽引リンクの両端は、車体と台車の間の位置関係の変化に対応できるように、上下左右にいくらか動く構造になっていて、隙間にゴムブッシュを入れて振動を吸収させている。
いまの新幹線電車の台車はいわゆるボルスタレス台車で、台車が回転する際の中心となる軸は存在しない。曲線区間では空気バネの変形によって、台車の回転に伴う位置関係の変化を吸収している。そして前述した牽引リンクが台車の位置を規定している。
輪軸の両端には、軸受を内蔵する「軸箱」が付いている。側面から見ると、その軸箱の左右に台座が張り出し、側梁との間にコイルバネを挟んでいる様子がわかる。コイルバネの内側には二重の円筒が組み込んであり、上下方向の動きは可能だが、前後・左右方向の動きは生じないようになっている。
また、軸箱と台車枠をつなぐ形でオイルダンパ(ショックアブソーバー)を設けてある。軸箱が上下方向に急激に動こうとしたとき、それをやわらげる緩衝の役割を果たす。
この円筒案内装置とコイルバネの組み合わせ、それとオイルダンパで構成する一式を「軸箱支持装置」という。名古屋の「リニア・鉄道館」に行くと、軸箱支持装置のカットモデルを見ることができる。
この構造でもわかるように、車体の荷重は空気バネを介して、台車枠の横梁中央部にかかってくる。さらにそれが横梁を通じて軸箱支持装置のコイルバネに伝わり、最終的には輪軸を経てレールまで荷重を伝えている。
ということは、台車枠の横梁は両端の軸箱支持装置を支えとして、中央部に車体から荷重がかかり、つねに下方向の曲げ荷重がかかっていることになる。
そして、亀裂が発生した部位は軸箱支持装置の台車中心側、コイルバネを取り付ける台座の横である。ちょうど曲げ荷重の影響を受ける部位であり、亀裂が下側から発生した点は荷重のかかり方と合致している。本来は荷重がかかっても耐えられる設計になっているが、なにかの事情から、耐えられずに亀裂が生じたことになる。
なお、動力源となる主電動機は台車枠の横梁に取り付けてあり、減速歯車装置を介して輪軸を回転させる。主電動機の位置は固定されているが、輪軸は上下に動くため、位置関係の変化を吸収するために主電動機と減速歯車装置の間に可動式の継手を挟んである。「のぞみ34号」の事案では、この継手から油漏れが発生した。