衆議院総選挙の影響で1週遅れのスタートとなった『民衆の敵』(フジテレビ系)を最後に、秋ドラマが終了。視聴率は平均20.9%を記録した『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)の独壇場だったが、『陸王』(TBS系)、『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)、『コウノドリ』(TBS系)も全話2桁視聴率を刻むなど、好結果を得る作品が多かった。

ここでは「高品質ほど視聴率が取れない矛盾」「秋ドラらしい手放しのハッピーエンド」という2つのポイントから秋ドラマを検証し、全18作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

  • 『先に生まれただけの僕』出演者(左から多部未華子、蒼井優)

■ポイント1:高品質ほど視聴率が取れない矛盾

前述した4作が高視聴率を記録したが、決してその他の作品が劣っていたわけではない。低視聴率に苦しんだ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)、『明日の約束』(フジテレビ系)、『監獄のお姫さま』(TBS系)、『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系)は、終始ネット上にコメントが飛び交い、その大半は絶賛だった。

あらためて高視聴率の4作を見ると、シンプルなテーマで、先の展開や結末が予想しやすいものばかり。対して低視聴率の4作は、テーマを掘り下げた分、思考力が必要であり、先の展開や結末が読めないものばかり。「リアルタイムで気軽に楽しむ」前者と、「録画してじっくり楽しみたい」後者と言えばわかりやすいのではないか。

“映像作品”としての質は後者のほうが高いが、テレビ事業がビジネスである以上、前者のコンセプトと結果は称えられるべきだろう。しかし、「セリフをじっくり聞きたい」「伏線を見逃さないために」という理由で録画されて視聴率が取れず叩かれてしまう後者のキャストとスタッフが報われない。

さらに、連日の低視聴率報道を目にした視聴者は、ネット上に何度となく不満を漏らしていた。「楽しんで見ているドラマが叩かれている」のが悔しいのだろうが、視聴者がここまで視聴率という指標に不満をぶつける状態は初めてではないか。

前者も後者も多様性が重要な連ドラに必要であることに疑いの余地はない。それだけに、後者が適正な評価を得られる視聴率以外の指標が求められる。

  • 『陸王』出演者(左から山崎賢人、役所広司、竹内涼真)

■ポイント2:秋ドラらしい手放しのハッピーエンド

連ドラは春夏秋冬、一年に4クール放送されるが、以前から「最もハッピーエンドが多いのは秋」と言われている。

その理由は、「最終回を迎える12月は一年の締めくくりだけに、後味の悪い終わり方は避けたい」「手放しのハッピーエンドを見て幸せな気持ちで年越ししてほしい」から。ラブストーリーなら「クリスマスに恋が成就」、ミステリーなら「すべての謎が解けて問題から解放」、医療モノなら「重病から奇跡の生還を果たす」などのポジティブな展開が目立つ。

今年の秋ドラマも、出色の爽快感を生んだ『陸王』『ドクターX』を筆頭に、『先に生まれただけの僕』『監獄のお姫さま』『コウノドリ』『民衆の敵』『ユニバーサル広告社』(テレビ東京系)『アシガール』(NHK)など、文句なしの大団円が続出。視聴者を笑顔にさせた。

謎を残して終わった『奥様は、取り扱い注意』は続編ありきの可能性が高いが、異彩を放ったのは『明日の約束』。生徒が自殺した原因に答えを求めず、ヒロインは学校を辞め、婚約者と別れるなどのシビアな結末を提示した。「つらい現実から生きて逃げて」というメッセージを投げかけたシーンは多くの視聴者を勇気づけ、どの作品よりも印象深かったと言える。


上記を踏まえた上で、秋ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『先に生まれただけの僕』。会社と学校の比較から、教育問題の切り取り方、教師と高校生の生態まで、考え抜かれた脚本・演出が冴え渡った。

その他で挙げておきたいのは、シリアスなテーマながら過剰な演出に走らず、ミステリーを交えて淡々と描いた『明日の約束』。放送枠の視聴者ニーズに、出来る限りの努力と工夫で応えた『陸王』。バディのバランスと愛らしさが出色だった『刑事ゆがみ』。ヒロインを徹底的に追い込み、復讐劇に奥行きを持たせた『ブラックリベンジ』(日本テレビ系)。よりシビアなエピソードを抽出して感動を呼び込んだ『コウノドリ』の5作。

主演男優では、貫禄たっぷりの浅野忠信と役所広司、女優では苦境に耐える演技で魅了した井上真央と木村多江。また、助演として主演の4人を盛り立てた神木隆之介、寺尾聰、及川光博、佐藤二朗、さらに風間杜夫、大森南朋、吉田羊、満島ひかり、手塚理美らの存在感も抜きんでていた。

  • 左から浅野忠信、役所広司、井上真央、木村多江

【最優秀作品】『先に生まれただけの僕』 次点-『明日の約束』
【最優秀脚本】『先に生まれただけの僕』 次点-『明日の約束』
【最優秀演出】『刑事ゆがみ』 次点-『先に生まれただけの僕』
【最優秀主演男優】浅野忠信(『刑事ゆがみ』) 次点-役所広司(『陸王』)
【最優秀主演女優】井上真央(『明日の約束』) 次点-木村多江(『ブラックリベンジ』)
【最優秀助演男優】佐藤二朗(『ブラックリベンジ』) 次点-及川光博(『明日の約束』)
【最優秀助演女優】吉田羊(『コウノドリ』) 次点-満島ひかり(『監獄のお姫さま』)
【優秀若手俳優】遠藤健慎(『明日の約束』) 山口まゆ(『明日の約束』)