運輸安全委員会は12月21日、2016年2月23日に新千歳空港で発生したJAL所属ボーイング737-800(JA322J)の航空事故調査報告書を公表した。同機には、機長ほか乗務員5人及び乗客159人計165人が搭乗していたが、この非常脱出の際に乗客1人が重傷、乗客2人が軽傷を負った。なお、同機に損傷はなかった。
JALの定期3512便として新千歳空港から福岡空港に向け出発するため、駐機場からプッシュバック後、誘導路上で地上走行の待機を行っていたところ、急な降雪に見舞われ、機体の防除雪氷作業を実施するため指定された駐機場へ向かうこととした。
同機は、更に降雪が激しくなったため移動中の誘導路上にて停止していたところ、機内において異臭及び煙が発生し、その後、第2エンジン(右側)後部に炎が確認されたため、15時10分頃、誘導路T2上で脱出スライドにより非常脱出を行った。
同事故は、激しい降雪に伴う地上走行待機中に、機内において異臭及び煙が発生し、その後、第2エンジン後部の炎が継続したことから、同機が非常脱出を行った際、脱出スライドで降下した乗客が腰から着地し、重傷を負ったことによるものと考えられる。
機内において異臭及び煙が発生したこと、及び、第2エンジン後部の炎が継続したことについては、急激な天候悪化により強い降雪(Heavy Snow)となり、ファンブレード及び低圧圧縮機に着氷したため、エンジン内部にエンジンオイルが漏れ、そのオイルが霧状となって機内に流入したこと、及び漏れ出たエンジンオイルがテールパイプに溜まり、発火したことによるものと考えられる。
また脱出時において、客室乗務員の指示に従わず多くの乗客が手荷物を保持していたため、非常口付近で客室乗務員が手荷物を取り上げ、操縦室ドア前に荷物が積み上げられる状況となった。荷物が脱出経路を塞ぐことを危惧し、運航乗務員が客室内への移動を躊躇し、運航乗務員による脱出の指揮・援助がなされなかった。その中で、脱出スライドで降下した乗客が腰から着地し、重傷を負うという状況になった。
JALが講じた再発防止策は、エンジンへの着氷及び異臭等への対策として、強い降雪時における地上での着氷防止のためのエンジン操作手順を改定。また、着氷によりオイルが漏れた場合、機内で異臭や煙が発生したりエンジン後方に炎が発生したりする可能性があることを、全運航乗務員に周知することとした。
非常脱出への対策として、機内上映の安全ビデオを改訂し荷物を持たないこと、脱出援助協力の内容を明確化した。また、客室乗務員の定期救難訓練に手荷物対応の手順を追加。同社グループ社員に対し、非常脱出時の客室乗務員への協力等、非常脱出に関わる教育のを行った。
今後必要とされる再発防止策として、国土交通省航空局及び各航空運送事業者は、広く一般利用者に対して、手荷物を持たないことなどの非常脱出時の安全情報についてその設定理由とともに周知し、より確実な理解と認識を促す方法を検討することが望ましいとする見解を示している。