大阪府八尾市のシャープ八尾事業所では、今でも冷蔵庫の国内生産が続けられており、白物家電を国内生産する唯一の拠点といえる。この存在こそが、シャープの冷蔵庫事業の60年を支えてきたのだ。

マザー工場としての八尾事業所

1957年、旧本社エリアの田辺工場(前工程)と平野工場(後工程)で生産を開始した冷蔵庫は、1959年7月に現在の八尾市へと早くも移管された。当時、最新の自動化設備を導入した量産体制の確立によって、東洋一とも言われたメッキ工場やプラチック成形工場などを併設したことで大きな話題を集めた。現在でも、冷蔵庫生産のマザー工場として、ハイエンドモデルの国内生産を続けている。

  • 1959年のシャープ八尾工場の様子

  • 現在のシャープ八尾事業場の様子

その一方で、1974年よりインドネシア・カラワンで冷蔵庫の生産を開始。1988年にはタイ・チャチャンサオ、1997年に中国・上海と、海外の生産拠点を次々と開設した。タイをハブ工場として、直冷式の1ドア小型タイプから、インバーター式5ドア大型タイプまで、幅広いラインアップを生産し、ASEAN、中近東、オセアニア、欧州、中国、日本などに供給している。

インドネシア工場もまた役割が変わっており、同工場で生産した冷蔵庫の約9割を同国内向けに出荷。独自デザインを採用した製品を投入したほか、不安定な電力事情を考慮して畜冷材料を使用した製品も投入している。この製品は電力が停止しても10時間に渡り保冷ができる点が高評価につながっているという。

  • インドネシア向けの冷蔵庫。現地では花柄模様が受けるという

  • 蓄冷材料を採用した冷蔵庫。停電が起こりやすい地域向けの付加価値モデルとして人気だ

こうした生産体制が確立する中で、あえて八尾事業所を残す理由はあるのか。シャープ 健康・環境システム メジャーアプライアンス事業部長の菅原 靖文氏は、「八尾事業所は、培った独自生産技術を、競争力の源泉として、海外生産拠点に供給する役割を担うマザー工場。その役割はこれからも変わらない」と、国内生産にこだわりをみせる。

冷蔵庫の歴史はシャープ革新の歴史?

1957年に発売した第1号冷蔵庫「HR-320」。一日の電気代は10円だった

シャープの白物家電事業は、1957年に発売した冷蔵庫、洗濯機、掃除機の3つの白物家電の投入で始まった。その中でも冷蔵庫は、発売以来の累計出荷が6000万台に達しており、事業規模で見ても同社を代表する白物家電製品だ。

さらに、6000万台出荷の実情は、近年の「シャープ冷蔵庫」の強さを表している。累計出荷が3000万台を超えたのは、事業スタートから50年となる2007年。そこからわずか10年で倍の累計6000万台を達成したことで、事業の成長曲線が文字通りの「右肩上がり」であることがわかる。

菅原氏は、「冷却方式や付加機能、使い勝手において、『業界初』を相次いで採用し、現在の冷蔵庫の礎となるものをいくつも投入してきた」と自信を見せるが、これは"機能ファースト"ではなく、「お客様の生活の変化にいち早く応える商品開発を続けてきた歴史である」と話す。

1957年に1号機を生産した際、冷蔵庫は「洗濯機」や「白黒テレビ」とともに「三種の神器」に例えられた。「主婦の家事労働からの解放」という役割を果たす最たる商品として開発・生産され、八尾工場での最新設備による量産化は、冷蔵庫の国内普及に大きく貢献したといえるだろう。

冷蔵庫の中央部に電子レンジを搭載したクッキング冷蔵庫「SJ-30R7」。同じ八尾工場内に冷蔵庫と電子レンジの事業部門があったことで実現した融合商品

その後、1960年~1970年代は、冷凍食品の普及やスーパーマーケットの拡大といった環境を背景に食生活の多様化が進んだ。そこで、現在の冷却方式の主流になっているファン式霜なし2ドア冷蔵庫を投入したほか、チルドルームの先駆けとなるフレッシュルームの採用、専用野菜室の先駆けとなる独立野菜室用、使い勝手を考えた業界初の上段冷蔵庫モデルなどを投入した。

1980年~90年代は、マンションの一般化やシステムキッチンの普及、環境問題がクローズアップされるなかで、省スペース化を実現する電子レンジと冷蔵庫を融合したクッキング冷蔵庫、オゾン式電子脱臭装置を搭載した冷蔵庫、ノンフロン真空断熱材を採用した冷蔵庫を発売した。

特に、キッチンのさまざまな間取りに対応した業界初の左右開き冷蔵庫の「どっちもドア冷蔵庫」は大きな話題を呼んだ。どっちもドアは今年で30歳だが、最新モデルでは電動アシスト機能を搭載した「電動どっちもドア」に進化している。

  • どっちもドアの初期モデル

  • どっちもドアのメカも世代別に展示した

2000年代から現在にかけては、さらに家庭環境が大きく変容した。中食や家飲みが浸透し、安全や安心に対する関心の高まり、共働き世帯の増加という社会背景も当たり前になった。

これに対してシャープは、「おうちでロック製氷」機能の搭載や、その後のプラズマクラスターイオン搭載へとつながる除菌イオンを搭載した冷蔵庫、地震の揺れを感知すると冷蔵室ドアをロックする「耐震ロック」機能の搭載、さらには蓄電池連携停電モード付冷蔵庫まで世に放った。

このように、これまでの60年間を振り返ってみると、シャープの冷蔵庫は、市場のニーズ変化にあわせて最先端機能を搭載し、日本の冷蔵庫市場をリードするポジションにいたことがわかる。それに加え、国内で培った技術力を背景に海外市場でも地域ニーズにあわせた製品を開発。これが、近年の出荷台数の急成長につながっているはずだ。

  • 海外では、日本品質を訴求する展開も

  • タイ工場で生産された冷蔵庫。普及モデルを中心に展開している