上野の森美術館(東京都台東区)では2018年6月6日~7月29日の期間、「ミラクル エッシャー展」を開催する。だまし絵(トロンプ・ルイユ)の分野で世界的な知名度を誇り、独創的な作品の数々で今なお世界中の人々を魅了するマウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898-1972)。本展は、代表的なだまし絵の作品に加え、初期に制作された作品や版画制作に使用された板など、イスラエル博物館が所蔵する貴重なコレクション約150点で構成される。

  • 《相対性》1953年

    《相対性》1953年

20世紀のオランダ、ひいてはヨーロッパ芸術の中で、エッシャーの芸術家としての立ち位置は極めて独特であった。版画というメディアに固執し続けたエッシャーは、現実的に見えながら非現実的な印象を与える不思議な造形の数々を生み出した。本展で公開される作品は全て日本初公開のものとなり、「科学」・「聖書」・「風景」・「人物」・「広告」・「技法」・「反射」・「錯視」の8つの観点から、それらを紐解く形でエッシャーの謎に迫る。

  • 《対照》1950年

    《対照》1950年

  • 《メビウスの輪Ⅰ》1961年

    《メビウスの輪Ⅰ》1961年

エッシャーの版画では、特定のモチーフを反復・循環させ、ときにはタイル状に埋め尽くすなど、独自の幾何学的な表現が用いられている。エッシャーはこれらの表現を生み出すため、同時代の「科学」から着想を受け、数学的な理論を発展させた。

  • 《カストロヴァルヴァ、アブルッツィ地方》1930年

    《カストロヴァルヴァ、アブルッツィ地方》1930年

  • 《アマルフィ海岸》1934年

    《アマルフィ海岸》1934年

エッシャーの作品が与える写実的かつ不可思議な印象の源泉となったのは、同氏のさまざまな「風景」体験である。1920年代からのイタリア、スペインへの旅行やアルハンブラ宮殿での幾何学な装飾模様との出会いが、のちのパターン化されたモチーフ表現の原点となった。

  • 《椅子に座っている自画像》1920年

    《椅子に座っている自画像》1920年

エッシャーの版画に登場する「人物」像は、反復するパターンのモチーフのひとつとしてしばしば画面に登場するが、初期のエッシャーは、単身の人物表現にも取り組んでいる。

  • 《年賀状》1947年

    《年賀状》1947年

エッシャーの造形は、さまざまな商業デザインにも登場する。本展では、商用として利用されたイメージとともに、エッシャーらしさが凝縮されたグリーティングカードも紹介する。

  • 《トンボ》1936年

    《トンボ》1936年

  • 《眼》1946年

    《眼》1946年

自らを“芸術家”ではなく“版画家”と考えていたエッシャーは、木版、木口木版、リトグラフ、メゾティントなどさまざまな版画技法に取り組み、それらを高度に発展させ、不可思議な版画空間を作り出した。多種多様な作例やマテリアルとともに、版画技法の観点からも作品に触れることができる。

  • 《球面鏡のある静物》1934年

    《球面鏡のある静物》1934年

エッシャーの作り出す不可思議な世界の特徴のひとつに、“鏡面”のイメージが挙げられる。鏡面を用いた絵画は、ヨーロッパでは近代以前から数多く描かれてきた。エッシャーもまた、現実世界にあるモチーフや人物像と、仮想世界としての鏡像との共存するイメージを描くことに夢中になっていた。

  • 《発展Ⅱ》1939年

    《発展Ⅱ》1939年

  • 《滝》1961年

    《滝》1961年

実現不可能な建築表現や、永遠に変化し続けるパターンを描いたイメージなどの“ありえない世界”が、エッシャーの芸術を代表する要素である。この独創的な表現は、当時の数学者が発表した不可能な図形に着想を得たものもある。正則分割を用いた循環の表現とともに、エッシャーが長年にわたり独自に発展させた理論を形にしたものといえる。

  • 《メタモルフォーゼⅡ》1939-40年

    《メタモルフォーゼⅡ》1939-40年

のちのエッシャーの代表的な構図の原点ともいえる『メタモルフォーゼ』シリーズ。貴重な初版プリントの『メタモルフォーゼⅡ』は、幅4mにおよぶ超大作であり、本展1番の目玉作品となる。

東京では約12年ぶりの大規模個展となる本展。東京展終了後は、大阪・福岡の巡回も予定している。デジタル時代の今だからこそ、“版画”にこだわり続けたエッシャーの偉業を再認識できる貴重な機会をお見逃しなく。

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