転換点
量産車が、一定のADASレベルを経て進化し、ある日、全自律型走行車になったとき、車両自体が統合モニタリングを提供する転換点に達していることになります。自動化されたシステムや関連ビッグデータへの依存が大きくなり、従来の車の概念を超えようとすると、システムの機能安全やサイバーセキュリティの重要性が高まるでしょう。このような状況はハードウェアとソフトウェア両方の技術革新を通じて、問題に対処してきたオン・セミコンダクターなどの企業ではすでに認識されています。
この転換点を乗り越えるための鍵は、効果的な「センサフュージョン」です。車両内の多様なシステムが連結されるため、より複雑で安全最重視の意思決定を行う能力が向上し、事故につながるおそれのあるエラーを防止する冗長性も強化されます。
センサフュージョン
視覚は、リアビューカメラから前方監視、車内ADASまでのさまざまな機構を含むアクティブな安全機能をサポートする車両技術の重要な要素です。
しかし、センサタイプには、ロングレンジまたはショートレンジ性能や悪天候での動作能力など、それぞれに特定の長所と短所があります。したがって、視覚は適切な意思決定、応答、調整が行えるように、タイプの異なるセンサからのデータを取りまとめて処理するのに不可欠な機能となるでしょう。このためにイメージセンサ、レーダ、LiDARを組み合わせて使用する場合もあります。
オン・セミコンダクターは、イメージセンサにおける市場リーダの地位と製品ポートフォリオを強化するために、最近行った自動車用レーダ技術による自動車センシング・ポートフォリオの拡大によって、自動車の安全性の向上や自律走行に向けてADASを進化させるために、独自にセンサフュージョンに対応することができます。
機能安全
大部分のADASシステムにおける主要なセンサは、システム全体の機能安全にとって不可欠なコンポーネントであるイメージセンサです。ISO 26262規格により、車両のASIL(安全性要求レベル)は、ASIL-A(最低)からASIL-D(最高)までの4段階で定義されます。ASILレベルは、障害の過酷度、障害の発生頻度、障害の影響に対する制御能力の3つの要因によって決定されます。
機能安全は、センサから始まり、レイテンシ、高速障害検出などの問題は、自動車OEM、一次外注先企業、センサメーカーなどが注視する重要な課題としてすでに認識されています。ADAS、特に適応走行制御、衝突回避、歩行者検出などのシステムに使用されるイメージセンサで障害が検出されなかった場合の影響は、致命的なものとなる可能性があります。
数千の潜在的障害モードの中から1つの発生を検出するプロセスは、各障害に1つのアルゴリズムを必要とするプロセッサ集約的な作業です。実際には、システムレベルでは検出できない障害もあります。また、フォールトトレラント・システムでのレイテンシは、すべてのシステム設計者にとって大きな懸案事項です。簡単に言えば、このレイテンシは障害の発生からシステムが安全な状態に復帰するまでの時間のことです。安全を確保するには、危険イベントが発生する前に障害を検出してそれに対処する必要があります。
ビジョンセンサはさらに進化を遂げており、機能安全での障害検出の役割はADASシステムからセンサ自体に移っています。このように検出機能が内蔵されているため、設計段階で障害の識別に対応できます。センサベースでの検出の利点は、ADASシステムの処理能力への負荷を軽減できるだけでなく、故障検出能力をも向上させることができることです。
今日でも、多くのADASシステムはASIL-Bへの準拠に苦心しています。短期的には、ASIL-Bへの準拠に必要なシステム数が大幅に増加します。将来のADASシステムは、幅広い普及が現実となる場合は、さらに厳しいASIL-CおよびASIL-Dへの準拠が必要になります。オン・セミコンダクターは、すでにこの分野で積極的に取り組んでおり、イメージセンサの多くに高度な安全機構を内蔵し、完璧な機能安全を実現しています。
自動車システムにおけるオン・セミコンダクターの役割
オン・セミコンダクターは、自動車向けCMOSセンサ分野には特に強く、世界市場の約50%のシェアを保持しています。
提供している幅広い製品ポートフォリオには、車両全体に搭載される自動車システムに適用可能なソリューションが含まれます。例えば、車両用電化や消費者のより広範なEVの受け入れに向けて勢いづくトレンドを支えるために、メインインバータや補助インバータ、オンボード充電器、急拡大する車両充電ステーション網などのシステムで使用される高性能なIGBTやFETの供給があります。
車両電化の普及が進むとワイドバンド・ギャップ技術が「ゲーム・チェンジャ」となります。オン・セミコンダクターのワイドバンド・ギャップ(SiCおよびGaN)技術は、既存のSi技術では不可能なレベルの高電力密度、高周波性能ソリューションをサポートすることができます。
ADAS用イメージセンサは、特定の機能および自動車の動作環境の厳しい要求に対するニーズによって開発が後押しされ、堅牢性とセンサ視野におけるフロントLED照明またはリアLED照明によって引き起こされるシーンの誤解釈問題を克服する光フリッカ軽減(LFM)、優れた赤外線性能、高輝度または低輝度条件での動作能力などの機能を兼ね備えています。
まとめ
先進運転支援システム(ADAS)は、車両での電子コンテンツ量の増加と機能向上の速度が速いことを物語る特徴的な機能の1つに過ぎません。しかし、おそらく最も進歩の著しい領域であると言えます。完全自律走行車への流れは勢いを増しており、自動車業界は転換点に迫っています。高度で機能的に安全なビジョンセンサが、将来のADASシステムの心臓部になるでしょう。これらのセンサを他の車載技術と「融合させて」サイバーセキュリティを確保すると、自動車業界は車両が真に自律的なものに近づくことができる転換点を通過することになるはずです。
著者プロフィール
ランス ウィリアムス(Lance Williams)ON Semiconductor オートモーティブ戦略副社長
2004年、ON Semiconductorに入社し、グローバルのオートモーティブマーケティング戦略を指揮。35年以上にわたり半導体、エレクトロニクス業界で経験を積む。現職以前は、同社のグローバル・オートモーティブセールスを統率。
同社入社前は、Motorola/Freescale Semiconductorで、北米オートモーティブセールスディレクター兼担当副社長、Delphiオートモーティブセールスディレクター、EMSIディレクター、リージョナルセールスマネージャーを歴任。
現在は、車載ならびに半導体営業の経験を生かし、全車載事業向けオートモーティブ戦略を担当。主要OEMならびに顧客と連携して、ON Semiconductorの戦略の指揮をとる。