東京に、日本初の地下鉄が上野~浅草間に開業してから今年で90周年。それを記念し、東京メトロは中野車両基地にて「Tokyo Metro 90 days Fes 中野車両基地一般公開イベント」を開催した。90周年を記念し、今年10月27日から来年1月24日までの90日間、さまざまなイベントが行われる中で、この車両基地公開が行われた。
今回は2,771名の応募があり、その中から午前90名・午後90名それぞれが当選。普段は入ることができない車両基地で工場を見学し、今年初めに登場した銀座線の1000系特別仕様車や、アルゼンチンから戻ってきた元丸ノ内線の車両500形を見ることができた。
最初に丸ノ内線500形と、現行の丸ノ内線方南町支線用の車両02系、保存されている銀座線01系、銀座線1000系特別仕様車の撮影会が行われた。1000系特別仕様車の前面には地下鉄90周年の記念ステッカーが貼られている。丸ノ内線500形の行先表示は「御茶ノ水」となっており、1954年の丸ノ内線池袋~御茶ノ水間開業に合わせたものとなっていた。この区間は、丸ノ内線で最も早く開業した区間である。
ブエノスアイレス時代の面影も残す500形
展示された丸ノ内線500形は、車両ごとに「登場時仕様」「引退時仕様(改修工事後)」「アルゼンチン仕様」のコンセプトで復元されている。まずはアルゼンチンの首都・ブエノスアイレスで走っていた時代の案内表示などを残す771号車に乗り込んだ。ブエノスアイレス時代の停車駅案内や路線図、車内広告が残されており、吊り手も溝の入った丸型のもので、「第二の人生」での活躍を感じさせるようになっている。
続いて、1996年に引退したときの仕様に復元された734号車に移る。吊り手は丸型で、座席の上部に荷棚が設置されている。停車駅を案内する路線図を見ると「西新宿」がなかった。西新宿駅は500形の引退と同じ1996年に設けられた駅。この車両に掲げられた路線図では、新宿~中野坂上間に駅はない。
最後に1958年の登場時仕様に復元された584号車に進む。先頭には方向識別灯があり、吊り手も水滴のような形をしたリコ式風のデザインに。荷棚は戸袋のある箇所にのみ設置されている。車内に停車駅の案内はない。なお、どの車両にも暖房の設備はなく、冷房は車両に固定された扇風機のみであった。
丸ノ内線500形は車両保守技術の伝承や電子化以前の車両を残すことを目的に、昨年7月に日本に"里帰り"し、その年の9月から修復作業を開始。今年11月に1次補修を完了させた。今後は走行可能な状態をめざすという。
02系の見えないところも見せた工場見学
私たちが普段見る鉄道車両は、おもに車両の上部だけを見ていて、床下がどうなっているかわからない。とくに、大半が地下区間で、ホームドアも完備された丸ノ内線では、車両の床下の詳細を見たことがあるという人は少ないのではないか。今回の工場見学では、そんな床下設備も見ることができた。
持ち上げられた02系の床下では、ATCなど各種機器がカバーを外された状態で公開された。また、空気ばねをはじめとする台車の部品なども展示されている。主電動機は丸ノ内線・銀座線で使用される直流600Vの規格のものが展示されていた。
丸ノ内線・銀座線は「第三軌条方式」と呼ばれ、地上のレール付近にある3本目のレールから電気を集める方式を採用している。その際に使用する「集電靴」も展示されており、すり減った見た目が日々の仕事ぶりを思わせた。
旧1000形を思わせる1000系特別仕様車
再び車両基地に戻り、銀座線で現在人気を集めている1000系特別仕様車を見学した。車内はレトロさを感じさせつつも、車内の案内表示などは最新のものとなっており、冷暖房も完備。昔の車両が醸し出す美しさと、最新技術による快適な設備とが一体となり、一般座席の深緑、優先席の臙脂の色が特別仕様車の魅力をさらに引き立てる。
いつも中吊り広告が掲示されている箇所には、東京メトロとその前身となる地下鉄の歩みを記した展示物があり、東京の発展、とくに高度成長期の東京の発展と軌を一にして歩んできた地下鉄の歴史がていねいに紹介されていた。
今回の中野車両基地一般公開は、第三軌条方式の地下鉄の魅力や技術、そしてその歴史を伝えるものであった。地下鉄開業から90年。東京に欠かせない電車として、今後も多くの人々の支持を集める交通機関であることを願いたい。