小田急電鉄が12月5日にお披露目した特急ロマンスカー新型車両70000形「GSE」。7両固定編成のボギー車で、2編成(計14両)を導入予定だ。当レポートでは披露会の発表内容をもとに、車体色をはじめ外観・車内の特徴をおさらいしたい。
新型車両70000形「GSE」の1編成目は、1号車から「クハ70351」(Tc2)・「デハ70301」(M4)・「デハ70201」(M3)・「サハ70151」(T)・「デハ70101」(M2)・「デハ70001」(M1)・「クハ70051」(Tc1)の7両編成。車両製造は日本車両(日本車輌製造)が担当した。
12月3日に日本車両豊川製作所を出場した際、先頭部や車体側面の帯・ロゴなどを隠した状態で輸送されたが、小田急ロマンスカーの象徴「バーミリオンオレンジ」より赤みの強い車体色は鉄道ファンらに強いインパクトを与えた様子。SNS上では「かつての名鉄パノラマカーのように見えてしまった」「白帯パノラマカーにしか見えない」「パノラマカーの新車と言われても違和感ないかも」などのコメントが相次ぎ、「パノラマカー」の愛称で活躍した名古屋鉄道7000系をイメージした人が多かったようだった。
小田急電鉄の特急ロマンスカー新型車両70000形「GSE」のデザイン設計は、50000形「VSE」、60000形「MSE」に続いて岡部憲明アーキテクチャーネットワークが担当。12月5日の披露会に出席した岡部憲明氏は、車体色を「ローズバーミリオン」、屋根部の色を「ルージュボルドー」、車体側面の窓下の帯を「バーミリオンオレンジ」と発表した。展望席のピラーの色は「EXE α」でも採用された「ムーンライトシルバー」とのことだった。
車体色「ローズバーミリオン」は薔薇(バラ)の色を基調としており、岡部氏は「オレンジ色のバラをテーマに色を探し、これをメタリックな塗装として『ローズバーミリオン』と名づけ、メインのボディカラーとしました」と説明している。
実際に車両を見ると、披露会当日は天候に恵まれたこともあり、日中はどちらかといえばオレンジ色の鮮やかさが目立っているように感じた。ただし、車体の日の当たらない部分などは赤く見え、さらに時間が進み、夕方近い時間帯になると、全体的に車体色の赤みが増したように感じられる。車体側面の窓が連続窓となっていることも手伝い、たしかに名鉄パノラマカーのように見えてしまうのもうなずける……という印象だった。
「GSE」は「LSE」の代替として製造された
新型車両70000形の愛称「GSE」は「Graceful Super Express」の略。同車両の開発コンセプト「箱根につづく時間(とき)を 優雅に走るロマンスカー」をもとに、優雅さを表す「Graceful」を用いた愛称としている。「GSE」の開発に至った背景について、披露会に出席した小田急電鉄取締役社長、星野晃司氏から説明があった。
小田急電鉄が現在所有する特急ロマンスカーのうち、展望室を備えるのは50000形「VSE」と7000形「LSE」の2形式だが、星野氏によれば「2005年デビューのVSEは2編成のみ。とくに土休日の箱根方面行が大変な人気で、混み合ってなかなか乗車できないという状態が続いていました。一方、LSEは1980年のデビューから35年以上が経過し、車両の更新時期を迎えつつあります」とのこと。「より多くのお客さまに、快適で上質な旅の楽しさを感じられるロマンスカーで箱根を訪れていただきたいとの思いから、LSEの代替として新型ロマンスカーを製造することとしました」と説明した。
開発にあたり、「観光にも通勤にも利用できることを前提に設計を進めました」と星野氏は言う。「GSE」では先頭車の1・7号車に展望席を16席ずつ設け、座席位置を既存の「VSE」より約35cm前方に配置し、展望席および車体側面の窓の高さを約30cm高くするなど、眺望性が強く意識されている。一方、星野氏の「少しでも多くのお客さまが利用できるように、座席定員数はVSEより42席多い400名としました」という説明からも、観光専用ではなく通勤時の使用も想定した車両であることがうかがえる。
車内の座席は幅475mm(展望席1列目のみ465mm)、リクライニング角度は12度、シートピッチは983mm。デザインについては岡部氏から説明があり、「VSEに続き、背を薄くして車内空間を狭めないようにしつつ、座り心地も良い椅子の開発を進めました。GSEの車体の形状も踏まえ、椅子の幅は従来より大きくしています」とした上で、最大のポイントとして座席の下の荷物収納スペース(55cm×40cm×25cm以内の荷物を収納可能)を挙げた。
「飛行機に持ち込める標準的な大きさのキャリーバッグも収納できます。これにより、高齢者が増える昨今、荷棚の上へ重い荷物を持ち上げることも少なくなるでしょう。1本足の支持台の中に暖房器具を入れ、暖房を前と後ろから出るようにして、座席下の荷物を熱くしないような工夫も行いました」と岡部氏は説明する。回転機構をいかに薄くするかも含め、時間をかけて椅子の設計に取り組んだとのことだった。
椅子張り地デザインは造形作家の岡崎乾二郎氏が担当しており、「あらゆる風景の中を走り抜けるロマンスカーのイメージをベースに、豊かな色彩で特製の模様を作っていただきました」(岡部氏)。背面の形状も工夫され、観光およびビジネスでの使用を考慮し、「ペットボトルやカップ、雑誌、パソコン、スマートフォン、さらにはバッグや雨傘まですっきりと収まるようにしました」と岡部氏は説明した。各座席の肘掛部にコンセントを設置したほか、車内無料Wi-Fiシステムによるインターネット接続環境も提供。加えて展望ライブ映像などを楽しめるコンテンツ配信も行う。
車両ごとの座席数は、1・7号車がそれぞれ56席(うち展望席16席)、2・6号車がそれぞれ60席、3・5号車がそれぞれ64席、4号車が40席(うち車いす対応席2席)。4号車を除く各車両の出入口デッキ部付近にラゲージスペースを設置した。トイレは2・4・6号車にあり、すべて洋式で、温水洗浄機能付き便座「ウォシュレット」を導入している。4号車には電動車いすで利用可能な「ゆったりトイレ」をはじめ、多目的室や自動販売機も設置した。
展望席を持つ特急ロマンスカーは3形式に
新型車両70000形「GSE」では、左右方向の車両振動を低減する「電動油圧式フルアクティブサスペンション」を編成の全車両に搭載(在来線量産車両では国内初とのこと)し、乗り心地を向上させたことも特徴となっている。全密閉式主電動機をはじめ、コンプレッサーや空調装置、駆動装置など低騒音タイプとし、SiC素子を用いたVVVFインバータ制御装置を搭載するなど省エネルギー化も進めた。台車はタンデム式(円筒積層ゴムタンデム配置)のボルスタレス台車とのこと。
車内・車外の照明はLED化され、車外の表示装置はフルカラーLED方式に。車内の天井は間接式LED灯(電球色)による照明としている。客室内(妻面)の表示装置はLCD方式となった。出入口デッキ部と客室内には防犯カメラを設置。車両の異常な動きを検知し、自動的に緊急停止して被害の拡大を防ぐ「異常挙動検知装置」、雨天時などに車両が滑走した際、滑走を低減させながら編成全体で可能な限り制動力を維持する制御を行う「編成滑走制御」をはじめ、安全・安心のさらなる追求も図っている。
車体はアルミ合金製で、空車計画重量は1・7号車が38.2トン、2・6号車が41.2~41.3トン、3・5号車が37.4~37.5トン、4号車が34.9トン、編成合計の計画重量は268.7トン。車体の長さは1・7号車が21,300mm、2~6号車が20,000mm、編成全長は142,600mm。7両とも幅2,878mm、高さ4,057mm(パンタ折りたたみ高さ4,100mm)となる。最高速度は110km/h(設計最高速度120km/h)。加速度は小田急線内が2.0km/h/s、箱根登山線内が2.4km/h/s。実減速度(初速120km/h時)は常用時が最大4.0km/h/s、非常時が4.7km/h/sとのこと。
特急ロマンスカーの新型車両70000形「GSE」の1編成目は今後、各種試験や乗務員の習熟訓練などを経て、複々線を使用した新ダイヤと同じく2018年3月中旬に就役する。箱根方面の特急「はこね」「スーパーはこね」を中心に、通勤用の特急「モーニングウェイ」「ホームウェイ」としても運行される予定だ。2編成目は2018年度以降に運転開始予定。特急ロマンスカーは当面、既存の7000形「LSE」・50000形「VSE」に70000形「GSE」を加えた3形式が活躍することとなり、土休日の所要時間短縮や箱根湯本発の最終時刻繰下げなどで箱根観光のアクセス向上を図るとしている。