自動車の電動化が急激に進んでいる。すでに世界中のほとんどのメーカーがHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)のモデルをラインアップしているが、この流れが落ち着く間もなく、今度はEV(電気自動車)への急速なシフトが進行中だ。いくつかのメーカーはすでにEV(電気自動車)を市場に投入しているし、数年以内にEVを発売することを発表しているメーカーも数多い。
「エンジン屋」といわれたホンダにとっても、電動化への対応は待ったなしだろう。これまでのホンダは、FCV(燃料電池車)とHVには積極的だったが、EVについて具体的な動きはなかった。しかし今年9月に開催されたフランクフルトモーターショーでコンセプトモデル「アーバンEVコンセプト」を初披露し、2019年に欧州でEVを発売すると発表した。
その1カ月後の東京モーターショーでは、早くも2台目のEVとなる「スポーツEVコンセプト」を発表した。「アーバンEVコンセプト」「スポーツEVコンセプト」の両モデルは11月に開催された名古屋モーターショーでもホンダブースの中央に鎮座した。
「アーバンEVコンセプト」は2ドアのコンパクトなシティコミューターで、「スポーツEVコンセプト」はそのスポーツカーバージョン。ともにEV専用に新開発した同じプラットフォームを採用している。
両モデルともに非常にシンプルな造形だというのが、多くの人の第一印象だろう。ややユーモラスにデザインした燈火類と、フロントグリル、リアガーニッシュのギミックが個性を出しているものの、それを除いたフォルムそのものは「特徴がないのが特徴」といいたくなるほどだ。3ドアハッチバックとファストバックの2ドアクーペの形状をシンボル化したアイコンに使いたいくらいである(ただし「アーバンEVコンセプト」はハッチバックかノッチバックか不明)だ。
あえて原点回帰したデザインがホンダらしい
自動車のデザインというのは、構造上、製造上の制約を強く受けるものだ。自動車が手作りだった頃は、職人が鉄板をハンマーで叩いて外装パーツを作っていたから、丸みを帯びた形状のほうが作りやすかった。だからクラシックカーは曲面を多用した形状が多い。プレス機で外装パネルを量産するようになると、一転して自動車はカクカクの直線デザインになったが、初期のプレス機ではこうした形状が作りやすかったからだ。
また、エンジンのサイズや形状、搭載位置、駆動方式、それにラジエーターの構造なども、自動車のデザインに大きな制約を課す要因となる。
では、EVのデザインはどうだろうと考えると、こうした制約がほとんどないことに気がつく。ホンダの両EVモデルのボディ素材は不明だが、従来通りのスチールやアルミのモノコックボディであっても、現在の技術なら造形上の制約は非常に少ない。あるいはシャシーの上に樹脂パネルを貼り付ける手法とも考えられるが、その場合はさらに制約は少なくなる。
エンジンやラジエーターなどによる制約も当然ながらない。EVのモーターは非常にコンパクトだし、巨大なバッテリーは車体の形状に合わせて分散して搭載することが可能だ。
このように、EVはデザイン上の制約が少なく、どのような形にも作れる。しかもホンダはEVのための専用プラットフォームを開発したから、従来のエンジン搭載を考慮したシャシー流用による制約もない。それなのに、ホンダの両EVモデルはこれ以上ないほどコンベンショナルな造形となっていることが、逆にホンダらしく、非常に面白い。
「アーバンEVコンセプト」のデザインについては、「N-ONE」に似ているなどともいわれるが、むしろ初期型の「シビック」を意識しているのではないだろうか。「アーバンEVコンセプト」と初代「シビック」は登場した経緯、自動車としての役割に共通点がある。従来のパワートレーンに問題ありとした社会の要請に応えるために開発されたことや、環境に配慮した乗り物であること、生活の道具としての機能性を追求していることなどだ。
だから意識して似せたということでもないだろうが、めざすところが同じであれば、おのずと形も同じところに収れんしていくということはあるだろう。もっとも、「シビック」がエコカーというジャンルを切り開いた先駆者であるのに対して、ホンダのEVはむしろ他社の後追いとなる。
それでもホンダならではといえる独自性を打ち出せるのか。そこがホンダにとっての課題だろう。AI技術の搭載といった試みもなされるようだが、決め手とはなりえない。こういったギミックはショー向けではあるが、実際のEVの販売を左右するのは、単純に航続距離と価格のバランスだろう。ガソリンエンジンでは、単純に他社よりハイパワーなら売れるという時代が、かつてはあった。EVも当面はシンプルに基本性能を競い合うことになるはずだ。その面でホンダが技術力を見せつけてくれることを期待したい。