個人投資家の間でトルコへの投資が人気となっているようだ。トルコは、欧州、アジア、中東・アフリカにつながる要衝に位置し、人口構造の若い新興国である。高い経済成長が期待でき、金利水準も高いという魅力がある。一方で、足元でトルコリラが対米ドルで2005年のデノミ以降の最安値を更新するなど、為替リスクが大きいのも特徴だ。本稿では、トルコ投資について考えてみたい。
トルコが高金利なワケとは?
まず、高い金利について。トルコでは短期も長期も金利が軒並み10%を超えている。金利がほぼ「ない」日本にいる投資家からみれば、うらやましいかぎりだろう。
もっとも、高金利の背景は主に2つ。ひとつは、インフレ率が高いこと。今年10月の消費者物価は前年比11.9%だった。モノの値段が上がるということは通貨の価値が下がるということと同義である。購買力平価の考えに基づけば、インフレ率が年率12%であれば、物価が安定している国の通貨に対して年率12%で下落してもおかしくない。
高金利のもうひとつの背景は、経常収支が赤字であって、それを穴埋めするために高い金利で国外から資金を引き込む必要があるということ。とりわけ、現在のように先進国が金融を引き絞り始めると、経常収支が赤字の新興国への資金流入は難しくなり、あるいは資金流出が顕著になり、同国の通貨には下落圧力が加わりやすい。
2013年5月に米国のバーナンキFRB議長(当時)が金融緩和を縮小する可能性に言及しただけで、新興国通貨は下落した。特に、通貨下落が顕著だった国、あるいはそれらの通貨は「フラジャイル(脆弱な)ファイブ」と呼ばれた。トルコ(リラ)は、ブラジル(レアル)、南アフリカ(ランド)、インド(ルピー)、インドネシア(ルピア)と並んでその一員だった。
今年11月に、米格付け会社が新たな「フラジャイル・ファイブ」を発表した。オリジナルメンバーの中で、トルコ(リラ)だけが再び有り難くない称号を贈られた。ちなみに、他の4つは、アルゼンチン(ペソ)、パキスタン(ルピー)、エジプト(ポンド)、カタール(リヤル)である。
以上から、新興国通貨(ここではトルコリラ)の下落と高金利の間に密接な関係がみてとれる。
トルコリラの特徴とは?
FX(外国為替証拠金取引)において、円で投資する側からみれば、トルコリラの下落分はスワップ(短期金利差)でカバーされる。そして、期待されるトータル・リターン(通貨騰落分+スワップ)は先進国通貨のそれを上回るはずだ。なぜなら、先進国通貨に比べて変動が大きく、流動性が低いトルコリラに期待されるトータル・リターンが先進国通貨と同じか、あるいは下回るならば、誰も投資するメリットを感じないからだ。もちろん、あくまでも合理的に期待できるのであって、保証されるわけではない。
トルコリラ建て債券への投資においても、基本的な考えは同じだ。元本の為替差損を金利収入でカバーするという図式になる。そして、トータル・リターン(為替差損益+金利収入)は先進国の債券に投資する場合を上回ることが期待できる。
最近、ネット上で個人投資家向けのトルコリラ建て債券投資の広告を見た。そのなかで、「100万円を投資して、為替相場に変化がなければ10年後に260万円になる」という主旨のシミュレーションが示されていた。しかし、「為替相場に変化がなければ」という仮定はまず成立しないと考えるべきだろう。為替相場だけに上も下もありうるのだが、該当期間中にトルコリラが対円で小幅の下落にとどまるならばラッキーと考えた方が良い。
トルコへの株式投資は?
では、トルコへの株式への投資はどうか。個別企業の株は別として、主要株価指数への連動を目指す投資信託を考えてみよう。トルコリラ安は輸出企業の業績改善を通じて株高要因となる可能性がある。ただし、トルコリラ安による株価押し上げ分が為替差損を十分にカバーできるかは不透明だ。トルコ企業は外貨(主に米ドル)建て債務を抱えるケースも多く、その場合はトルコリラ安が財務内容の悪化要因となりうる点にも注意は必要だろう。
トルコの主要株価指数は今年11月末までの1年間に38%上昇した。これは米国の主要株価指数の上昇率19%の2倍のペースだ。ただし、前者はトルコリラ建て、後者は米ドル建て。同一通貨建てで比較すれば、両者はほぼ同じ上昇率だった。
債券投資にしても、株式投資にしても、トルコリラの下落リスクを回避したければ、為替ヘッジをしてはどうか。残念ながら、答えは「ノー」だ。為替ヘッジにはコストがかかる。そして、そのコストはほぼ短期金利差に等しい。つまり、トルコリラをヘッジして円建ての投資に換えようとすれば、高金利のメリットは消滅する。
以上の観測は、トルコだけでなく、その他の新興国への投資にも通じる部分が多いのではないだろうか。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。