国産初のジェット機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」が歩んできた歴史やその構造とともに、MRJが生まれる現場を見る。11月30日、MRJをさまざまな角度から学んで触れる「MRJミュージアム」が誕生する。そのミュージアムは、2年前の2015年11月11日にMRJが初飛行を飾った県営名古屋空港内にある。

「MRJミュージアム」は展示のほか、最終組立工場の見学も行っている

「あいち航空ミュージアム」と同じ夢を

30日には、同じ県営名古屋空港内に「あいち航空ミュージアム」もオープンする。「あいち航空ミュージアム」は、航空機産業の情報発信・航空機産業をベースとした産業観光の強化・次代の航空機産業を担う人材育成の推進をコンセプトとした体験型ミュージアム。MRJミュージアムはそのコンセプトを補完する存在であり、また、現在も開発が進むMRJへの理解・夢を膨らませる拠点となる。

MRJミュージアムの受付は「あいち航空ミュージアム」2階となる

MRJ関係の展示は、実物大模型で操縦もできる「三菱みなとみらい技術館」(神奈川県横浜市)がすでにあるのだが、このMRJミュージアムの最大の特徴は、MRJの開発・製造を担う本拠地であるMRJ最終組立工場に、ミュージアムが併設されていること。ツアーには今まさに稼働しているその製造現場の見学も含まれているため、ミュージアムはセキュリティーの関係により、アテンダントが案内する完全予約制のツアーとなっている。

あいち航空ミュージアムからMRJミュージアムへはシャトルバスが案内

ツアー受付は、あいち航空ミュージアムの2階で行う。ツアーは1班15人程度までとなっており、1回約90分で5階展示室と2階の実機製造作業をめぐる。予約はオフィシャルサイトから2カ月先まで受付ており、11月21日現在、約3,000人の予約があるという。

完全予約制のツアーはアテンダントと一緒に

全90分でMRJの秘密を知る

アテンダントに中を紹介してもらう前に、まずはエントランスに設けられた撮影スポットで記念撮影を。このMRJは、2014年10月18日に関係者や報道陣に公開された時のものだ。

エントランス側には撮影スポットを用意

記念撮影が終わったら、アテンダントとともにまずは5階へ。エレベーターの中もMRJをテーマにしたデザインがされており、なんだか華やかだ。5階に到着してすぐに、通路が滑走路風になっていることに気が付くだろう。この通路は名古屋空港の滑走路の表示をもとにデザインされており、長さや壁面に描かれたMRJの滑走距離は縮図になるように計算されている。

順路の標識もかわいい

県営名古屋空港の滑走路を忠実に再現

今、MRJがテイクオフ

5階展示室に入る前に、MRJの開発から2015年11月11日の初飛行までをまとめた映像を、超大型スクリーンで観覧。映像が終了すると、展示室の扉のすぐ向こうで実物大のMRJが目に飛び込んでくる。

実物大の機首がまず姿を現す

展示室の中央にはMRJが1機、機体と機体の間に展示エリアを設けながら横たわっている。側にはMRJのデザインコンセプトとなった「和」「伝統美」の展示もある。流れる曲線は日本刀から、イメージカラーの赤・黒・金は伝統工芸の漆塗りから、操縦室の窓の縁取りは歌舞伎の隈取りから、それぞれのデザインが生み出された。

ラフとともに「和」「伝統美」の元になったものの展示も

実物大の機首には、内部にコックピットと客室を備えている。この客室内の座席には実際に座ることも可能。座席は色が2色あり、よく見ると素材も異なる。これは革製と布製の違いで、実際にMRJの顧客に対する説明にも使うことができるようになっている。スリムシートでありながら快適さを損ねず、また、同クラスの中でも最も天井を高くすることで、足元とともに頭上空間にもゆとりが生まれている。

コックピット

座席は布製と革製の両方が並んでいる

高く設けられた天井には、広々収納とデザインが面白い照明を

翼の展示には断面図を、エンジン部分の展示にはエンジン・パイロン原寸大模型を、それぞれ使用。設計の初期段階である2009年には、木材や樹脂を用いた原寸大模型を作り、具体的な模擬動作を行いながら開発を進めたという。

翼は断面ショーとともに紹介

エンジン・パイロン原寸大模型からエンジンの構想が始まった

さらに奥には、炭素繊維複合材(CFRP)からなる垂直尾翼の供試体も展示されている。このCFRPは鉄よりも10倍強度が高く、鉄の1/4の重さという高性能な素材で、軽量化と燃費効率向上にも寄与している。

垂直尾翼にもMRJの挑戦がうかがえる

翼やエンジン部分以外にも、さまざまなパーツの実物展示を行っている。パーツ単独を見ると、どの部分のパーツなのかよく分からないものも多いのだが、解説を見てみると「あ~、確かにあの部分のパーツなんだろうな」と納得。実際、MRJは100万点にものぼるパーツから作られている。これらのパーツは三菱重工業の各工場で製造されており、それらは最終組立工場に集められる。その様子もパネル展示で紹介している。

MRJには100万点にものぼるパーツを使用

各工場からパーツが最終組立工場に集結

また、製造の現場をタブレットを用いて紹介するエリアもある。各席の前にはタブレットが備えられており、前後左右に振ると360度ムービーが楽しめる。

タブレットを動かすだけで画面が自由に広がる

そのほかにも、空力設計の仕組みを解説するプロジェクションマッピングの展示や、着陸後に使用するエンジン逆噴射装置(スラストリバーサ)の性能を確かめるための風洞試験模型の展示もある。さらに、三菱重工グループが展開している陸・海・空・宇宙の事業を紹介するMHIグループコーナーにて、それぞれの技術のつながりを読み解いてみるのも面白いだろう。

空力設計の仕組みを映像で紹介

風洞試験模型。真っ黒なMRJもかっこいい

MHIグループコーナーでグループが有する技術を垣間見る

MRJを後ろから眺める

MRJが生まれる瞬間をのぞく

今度は2階の最終組立工場エリアへ。見学はガラス越しになるが、組立エリアと艤装エリアの両方を眺めることができる。

最終組立工場の全貌

最終組立工場ではまず、5つの胴体を結合し、主翼・水平翼・脚を付けて自走できるように全機結合し、ドアやフラップ等の構造品を取り付け、全機艤装を行う。その後、静強度試験や疲労試験へと進む。この最終組立工場には月産10機まで対応できる広さがあり、そうした実際の作業風景を見学することができる。

MRJ90とMRJ70

MRJ90

MRJ70

出口の側にはミュージアムショップを設けている。ミュージアム限定アイテムとして、「キャンパストートバッグ」(650円/Sサイズ、850円/Lサイズ)のほか、「測量野帳」(400円)、「シャープペンシル」(650円)、「尾翼キーホルダー」(864円)などを取りそろえている。もちろんプラモデルも含め、どこを見ても充実のMRJグッズである。

ミュージアムショップには、ここ限定のものからMRJ人気グッズまで勢ぞろい

予約は1カ月ごとではなく1日ごとに、2カ月先の予約を更新して受け付けている。MRJミュージアム単独の入場料は、大人1,000円、高・大学生は800円、小・中学生は500円となる(未就学児は入場不可)。また、あいち航空ミュージアム単独の入場料は、大人1,000円、高・大学生は800円、小・中学生は500円。セット入場券は、大人1,500円、高・大学生は1,200円、小・中学生は750円となる。なお、MRJミュージアムに小・中・高・大学生の団体が教材学習プログラムとして訪れる際は、入場無料で案内する。

●information
MRJ ミュージアム
住所: 愛知県西春日井郡豊山町大字豊場
アクセス: あおい交通なら名古屋駅/JR勝川駅から約20分、名鉄バスなら名鉄西春駅から約15分 開館時間: 10:00~17:40(最終入館16:10)
定休日: 毎週火曜日(土日祝日、ゴールデンウィーク・お盆は開館。年末年始休館)
※見学の申し込みはウェブサイトからの完全事前予約制

●information
あいち航空ミュージアム
住所: 愛知県西春日井郡豊山町大字豊場
アクセス: あおい交通なら名古屋駅/JR勝川駅から約20分、名鉄バスなら名鉄西春駅から約15分 開館時間: 10:00~19:00(予定)
定休日: 火曜日(予定)

※価格は税込

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