米国の航空宇宙企業オービタルATKは2017年10月3日(日本時間)、10機の小型衛星を搭載した小型固体ロケット「ミノトールC」(Minotaur-C)の打ち上げに成功した。
ミノトールCという名前のロケットが打ち上げられるのはこれが初めてだったが、その実態は、同社がかつて運用していた「トーラス」ロケットの改良型である。トーラスは2009年と2011年に相次いで失敗し、今回が約6年ぶりの打ち上げとなった。
失敗と改良を経てよみがえったトーラス改めミノトールCだが、しかしその将来は不透明なままである。
ミノトールCは、日本時間2017年11月1日6時37分(太平洋夏時間10月31日14時37分)、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地の第576E発射台から離昇した。飛行中、ロケットの状態を示す信号(テレメトリー)が一時途切れはしたものの、ロケットは順調に飛行し、10機の衛星を分離した。
搭載されていたのは、米国の衛星会社プラネット・ラブズ(Planet Labs)が運用する地球観測衛星「スカイサット」(SkySat)が6機と、同じく同社が運用する「ダヴ」(Dove)が4機の、あわせて10機。
スカイサットは分解能約1m弱で地上を撮影できるカメラをもった100kg級の小型衛星、一方のダヴは、分解能最大3mのカメラを搭載した質量約5kgほどの超小型衛星で、同社ではこうしたさまざまな性能の衛星を合計300機近く打ち上げ、高い頻度で地表を撮影し、そのデータを販売することを目的としている。
衛星の分離は通信範囲外で行われたため、リアルタイムでの確認はできなかったものの、その後衛星からの信号が届いたことから、打ち上げから約2時間半後、オービタルATKやプラネットは打ち上げ成功と発表した。衛星は現在、高度約500kmの太陽同期軌道を回っている。
よみがえったトーラス
ミノトールCと名づけられたロケットが打ち上げられるのは今回が初めてだったが、その実態は、同社がかつて運用していた「トーラス」(Taurus)ロケットの改良型であり、まったくの新型機というわけではない。
トーラスはオービタルATK(Orbital ATK)の前身にあたる、オービタル・サイエンシズ(Orbital Sciences)が開発した小型の固体ロケットで、トーラスとはおうし座を意味する。
オービタル・サイエンシズ、そしてオービタルATKといえば、飛行機から発射する形式の空中発射ロケット「ペガサス」でおなじみだが、トーラスはこのペガサスから翼を取り外し、さらに下段に「キャスター120」という強力な固体ロケットを取り付け、地上から打ち上げられるようにしたロケットである。ちなみに、同社ではキャスター120を第1段ではなく第0段と呼んでおり、2段目、すなわちペガサスの第1段にあたる部分から第1段と数えている。
全長約28m、直径は2.4mの4段式ロケットで、地球低軌道に最大約1.5トン、太陽同期軌道に約1トンの打ち上げ能力をもつ。
1994年にデビューしたトーラスは、約2年に1機ほどの頻度で、今回までに合計9機が打ち上げられてきたが、2001年には第1段(第0段)の分離ができずに失敗。2009年には、米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星を載せた打ち上げで、フェアリングの分離ができないというトラブルが発生。余計な重りを抱えたまま飛行を続けた末に、軌道に到達できず、そのまま大気圏に落ち、衛星もろとも燃え尽きるということになった。
さらに2011年には、同じくNASAの地球観測衛星の打ち上げで、ふたたびフェアリングの分離ができずに失敗。9機中3機が打ち上げ失敗、それも2機は同じトラブルによって連続で失敗という、さんざんな結果に終わった。これを受けてNASAは、このあとに予定されていたトーラスを使った打ち上げをキャンセルしている。
その後の調査で、この2回の失敗はともに、フェアリングの分離機構に問題があったことが判明。さらに追求した結果、フェアリングの製造会社に部品を納入していた下請け業者が、宇宙用部品としての資格を得るための試験に合格していないにもかかわらず、合格したとデータを偽装した上で、この部品を納入していたことが明らかになった。
これを受け、オービタルATKではトーラスにフェアリングの設計変更をはじめとする改良を施した。さらにロケットの名前も、ギリシア神話に登場する牛頭人身の怪物ミーノータウロス(ミノタウロス)から取った「ミノトールC」へと変更した。オービタルATKはトーラスとは別に、ミノトールIやIV、Vというロケットも運用しており、そのシリーズ名に合わせると共に、商用ロケットを意味する「Commercial」の頭文字「C」をつけている。
名称変更の理由は公式には明らかになっていないが、おそらくは失敗を繰り返したことで、トーラスという名前のイメージが悪化したためだろう。ちなみに同社は、同じころに「トーラスII」というロケットも開発していたが、こちらも「アンタリーズ」(Antares、さそり座のアンタレスの意味)という名前に改名され、現在国際宇宙ステーションへの物資補給で活躍している。
また電子機器も他のミノトールのものと共通化することで、低コスト化と信頼性の向上を図っている。
こうした経緯を経て、生まれ変わったトーラス改めミノトールCは、無事にその最初の打ち上げに成功した。
"C"に込められた意味
ところで、なぜわざわざ、ミノトール"C"と、Commercial(商用)ロケットであることを強くアピールした名前をつけなければならなかったのか。その背景には、同社が運用するロケットの複雑な事情がある。
前述のように、オービタルATKはミノトールCとは別に、ミノトールIやIV、Vと呼ばれる小型の固体ロケットを運用しており(さらにミノトールVIも開発中)、とくにミノトールIVは、トーラスとほとんど同じ打ち上げ能力ながらコストが2000万ドルほど安く、ミノトールCを維持するのは無駄なようにも思える。
その背景には、ミノトールIやIV、Vが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を転用したロケットであるという事情がある。旧式化し退役したICBMを、オービタルATKが買い取り、そして改修して人工衛星を打ち上げるためのロケットとして生まれ変わらせたのが、ミノトールIやIV、Vなのである。すでに製造済みのミサイルを転用すれば、打ち上げコストや価格も安くできるのは当然のことである。
しかし、それでは一からロケットを開発している企業が不公平になってしまい、競争を阻害するという理由から、ミノトールI~Vは商業打ち上げへの使用が法律で禁止されている。
つまりオービタルATKが、商業打ち上げを行うためには、ミサイル転用ではないロケット、すなわちトーラス改めミノトールCを維持し続けるしかない。厳密には、ミノトールCのキャスター120も、ICBMとまったく無関係というわけではないが、少なくとも退役したミサイルをそのまま転用しているわけではなく、新たに製造したものを使っているので、商業打ち上げに使うための条件はクリアしている。
同社が、失敗が続いたトーラスを、ミノトールCという名前でわざわざ復活させ、維持しようとしているのには、こうした事情がある。