バセドウ病という病名を聞いたことがあるだろうか。一般的にはあまり聞き慣れない病気かもしれないが、200~400人に1人が罹患するとも言われており、特に女性に発症例が多くみられる。
著名人ではシンガーソングライターの絢香さんが同病を理由に活動を休止しており、ピンク・レディーとして一世を風靡した増田恵子さんも長年にわたり、バセドウ病に苦しめられている。
甲状腺ホルモンの異常によって発病するバセドウ病は、誰にでも罹患する恐れがある。今回は内科・糖尿病内分泌内科の山本祐歌医師にバセドウ病についてうかがってみた。
――まずは、バセドウ病の発病メカニズムについて教えてください。
バセドウ病は、同じく甲状腺ホルモンの異常によって発病する橋本病と一緒で「自己免疫疾患」と呼ばれる病気です。私たちの体は、体内に細菌やウイルスなどの異物が侵入してくると、白血球やリンパ球などの細胞がその異物を攻撃・破壊します。このシステムは「免疫」と呼ばれ、一般的にこの免疫の力が高いとさまざまな病気になりにくいと考えられています。
ですが、バセドウ病や橋本病はこの免疫システムに何らかの異常が起こり、自分自身の細胞を「異物だ」と認識して攻撃してしまいます。それに伴い、甲状腺にあるTSHレセプターに対する自己抗体(TSHレセプター抗体)ができ、この抗体が甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを過剰に分泌させてしまうことが、バセドウ病の発病の仕組みです。
――甲状腺ホルモンの過剰分泌によって、具体的にはどのような症状を呈するのでしょうか。
甲状腺ホルモンは代謝を司る役割を担っています。そのため、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると代謝が異常に上がります。「体が常に全力疾走をしている状態」をイメージしていただくと、わかりやすいと思います。
具体的な症状で言いますと、「動悸」「息切れ」「暑がり」「異常に発汗が多くなる」「疲れやすい」「たくさん食べても体重が減る」「イライラ感」「集中力の低下」「手指の震え」「筋力低下」「無月経」「軟便」などがあります。また、眼に対する自己免疫によって「眼球突出」「眼球運動障害」「複視」などのバセドウ眼症を伴うケースもあります。
――「常に全力疾走」ですか……。だるさや息切れを感じるようになるのも無理はないですね。女性の場合、年齢によっては更年期障害と勘違いしてしまう方もいそうですね。ところで、発病しやすい人の特徴はあるのでしょうか。
遺伝的な体質を持っていることに加えて、環境因子(ストレス)が原因で発病されるケースが多いです。
――現代社会はストレスだらけですから、十分に注意したいと思います。万一罹患してしまった場合、どのような治療をするのでしょうか。
治療法としては、「薬物療法」「アイソトープ治療」「手術」という3つの選択肢があります。一般的には、まず薬物療法を選択される方が多いです。薬物療法は薬によって甲状腺ホルモンの合成を抑制します。
アイソトープ治療とは放射線を利用し、アイソトープが入ったカプセルを内服して甲状腺細胞を減らすことによって、甲状腺ホルモン産生の正常化を目指します。手術では甲状腺の切除によって、甲状腺ホルモンが正常化します。
それぞれの治療には長所、短所があります。また、患者さんそれぞれの状態にもよるため、主治医の先生と相談して決めるのがよいかと考えます。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 山本祐歌(ヤマモト・ユカ)
日本糖尿病学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。En女医会所属。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。