たくさんの飲食店が軒を並べている街には、長い歴史を持つ店もある。中にはとてつもない大物が訪れていた店もあるらしい。そんな話を耳にして、やってきました東京都・神保町。今回は、「中国名菜 漢陽楼」(東京都千代田区)で月替わりランチメニュー「ホタテ貝柱とキノコの塩麹炒め」を味わってきた。
100年以上続く、周恩来ゆかりの中華料理屋
同店は、東京メトロ半蔵門線「神保町駅」のA5出口を出て、靖国通りを少し歩いたところにある。路地に入ると瓦屋根が目を引く、周囲でひと際歴史を感じさせる店構えだ。「漢陽楼」は1911年創業で、なんと100年以上の歴史ある中華料理店! そしてこの店、「周恩来ゆかりの店」として知られている。歴史に疎い筆者も、さすがに日中国交正常化に尽力した周恩来首相は知っている。でも、どんなゆかりがあるのだろうか?
店長の林勇さんは、「この店は、僕の曽祖父が中国から日本に来て始めたんです。ロシア銀行の銀行員だった曽祖父は、この辺りにあったロシア銀行に勤務するために来日しました。そこで、中国からロシア銀行に送金されたお金を留学生たちに配る仕事をしていたんです」と店の馴れ初めを話す。おぉ……、なんだか歴史の授業を受けている気分になってきた。
そして、「その後の日露戦争で銀行が潰れて、これから何をしようかと考えたとき、料理が好きだったことと、留学生にお金を配っていたために顔が広く信用もあったことから、留学生向けに『まかない付きの下宿』を始めることにしたんです。それがこの店の始まりですね」とのこと。
しかし、1911年の辛亥革命で留学生が中国に帰ってしまったことで、日本人も相手にしたラーメンや餃子を出すようになったという。そのため、1911年を創業としているそうだ。
そして、周恩来さんは当時1年間留学生として来日しており、この店を訪れていたのだとか。当初はそのことをあまりオープンにしてなかったが、1992年に日中国交正常化20周年を記念した「周恩来展」が開催されたとき、開催にあたり展示物の中に留学時代に使っていた日記帳が発見され、「漢陽楼で会食」と記してあったことから、「周恩来ゆかりの店」と謳うようになったそうだ。日記の文章は、店頭に展示された写真でも確かめることができる。
ところで、周恩来さんはどんなものを食べていたのだろうか? 林さんによると、「曽祖父の出身が上海からちょっと下の港町、寧波市(にんぽうし)だったんですが、曾祖父が作る料理の中でも、周恩来先生は清燉獅子頭(チンドゥシーシトウ、大きな肉団子澄スープ蒸し)を好んで食べていたみたいです」という。なんとなく、歴史の重みを感じさせるメニューだなあ。また、革命前夜の"中国革命の父"こと孫文も店を訪れていたとのことで、「孫文のおかゆ」もあり。なんてすごい店なんだ!
秋の味覚キノコをたっぷり使ったランチをいただく
こうした歴史ある店でありながら、ランチタイムにはリーズナブルな価格で本格的な味を楽しむことができるのが嬉しいところ。月替わりのランチタイム・メニュー(ライス・スープ・お新香付き)もあり、今回は11月のランチメニューのひとつ「ホタテ貝柱とキノコの塩麹炒め」(税込980円)を食べることにした。
秋といえば、キノコがおいしい季節。しめじ、ひらたけ、椎茸、エリンギ、ふくろ茸などのキノコがたっぷり入っていて、コリコリしていたり弾力があったりとさまざまな食感を楽しめるので、キノコ好きにはたまらない。風味の強さに、秋らしさを感じることもできる。
そして、上に乗っているホタテ貝柱がでけぇ~! しかも4つも! 噛みしめるとしっとり柔らかく、上品な味わいだ。キノコとの相性もバッチリだしご飯にもよく合う。塩麹と醤油、酒、胡麻油だけというシンプルな味付けで新鮮な素材の味を生かしているから、後味もさっぱりしていている。風格漂う店内で食べていると、思わず周恩来首相になった気分に……なれるかも?
ランチタイムにはもちろん麺類、チャーハンもあり。月替わりのランチメニューは、他にも2つ。また、2階には5名~60名が利用できる宴会場もあるので、これからの季節には重宝しそうだ。日本と中国の歴史を感じながら、本格中華を味わってみてはいかがだろうか。
●information
中国名菜 漢陽楼
住所: 東京都千代田区神田小川町3-14-2 漢陽ビル 1階・2階
営業時間: 月~金 11時~15時(L.O.14時30分)、17時~23時(L.O.22時)
土 11時~15時(L.O.14時30分)、17時~22時(L.O.21時)
定休日:第3・第5土曜日、日曜日、祝日