米労働省が11月3日に発表した10月雇用統計の主な結果は、(1) 非農業部門雇用者数26.1万人増、(2) 失業率4.1%、(3) 平均時給26.53ドル(前月比±0.0%、前年比2.4%増)という内容であった。
(1) 10月の非農業部門雇用者数は市場予想(31.3万人増)を下回る26.1万人増にとどまった。もっとも、3.3万人減だった9月分が1.8万人増に上方修正され、8月分の修正と合わせて9.0万人分が上乗せされた結果、3カ月平均の増加幅は16.2万人へと持ち直した。なお、大型ハリケーン襲来の影響で9月に大きく減少していた娯楽・観光業の就業者数が10月には10万人超増えており、米国の雇用増加基調に変化はないとの見方を裏付ける結果となった。
(2) 10月の失業率は市場予想(4.2%)を下回る4.1%に改善して2000年12月以来の低水準を記録した。ただ、労働参加率が62.7%に急低下(労働力人口が減少)した点は割り引く必要がありそうだ。一方で、正規雇用を望みつつもパートとして働いている就業者を含めた広義の失業率(不完全雇用率)が7.9%に急低下して、2006年12月以来の水準に改善したのは評価すべき点だろう。
(3) 10月の平均時給は26.53ドルとなり、伸び率で示すと前月比±0.0%だが、金額で見ると前月から1セント減少した。伸び率は前年比でも2.4%増と今年最低にとどまった(予想:前月比+0.2%、前年比+2.7%)。なお、(1)で触れたように娯楽・観光業といった比較的低賃金の業種で就業者が増加したために、全体の賃金の伸びが抑制されたとの見方が有力だ。
このように米10月雇用統計は、前回弱かった雇用者数については持ち直したが、前回強かった平均時給は減速するなど、大型ハリケーンの影響で歪められた9月分の反動が出たと考えられる。
前回の本レポートで、9月雇用統計は「向かい風」と「追い風」が吹き乱れた結果、「参考記録」の評価としたが、今回もハリケーンの「吹き返し」が強く、「参考記録」の扱いとするしかないだろう。ドル/円は、発表後に乱高下したものの、終値ではほぼ横ばいだった。
一方で、米国株は小幅高でこの日の取引を終えた。米国債は2年債利回りが小幅に上昇した半面、10年債利回りは小幅に低下するなど、マチマチだった。市場も、この10月雇用統計に対して評価を下しあぐねているようだ。もっとも、米連邦公開市場委員会(FOMC)は今月1日の声明で「ハリケーン関連の混乱にもかかわらず、労働市場が引き締まり続け、経済活動は堅調に伸びている」との見解を示している。少なくとも今回の雇用統計には、この評価を否定するだけの理由は見つけられなかった。結果として、(FOMC)が緩やかな利上げの方針を維持するとの市場の見方にも変化は生じなかったようだ。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya