今回の東京モーターショーでは、「あの往年の名車が復活する」といった事前情報がたくさんあった。噂にのぼったのはトヨタ「2000GT」「スープラ」、日産「シルビア」、ホンダ「S2000」などのスポーツカーだ。しかし、文字通りの噂でしかなかったらしく、これらのモデルの東京モーターショーでの復活はいずれもなかった。
そんな中、事前にメーカーから復活が正式発表され、晴れて東京モーターショーでワールドプレミアを飾ったのが、ダイハツ「DNコンパーノ」だ。
「コンパーノ」はダイハツが1963年に発売したコンパクトカー。当時のダイハツはオート三輪のメーカーだったが、本格的な乗用車の分野に進出すべく「コンパーノ」を開発した。この1車種で商用のライトバンからセダン、オープンカー、果てはトラックまで作られ、同社が乗用車メーカーへ成長する礎となったモデルである。搭載されたエンジンは800ccや1,000ccで、軽自動車ではない。スズキ、ホンダ、マツダなどは軽自動車から四輪に参入してステップアップしたが、ダイハツは最初から登録車で勝負したのである。
さて、復活した「DNコンパーノ」は、事前に広報画像を見たときから期待できそうだと感じていたが、実車のエクステリアはそれ以上に素晴らしいという印象だった。そのデザインは決して懐古趣味ではなく、むしろ近未来的。クリアで若々しく、華がある。しかし、全体の雰囲気はまさに「コンパーノ」だ。
ダイハツは名車復活の意義をノスタルジーと履き違える愚を犯さなかった。初代「コンパーノ」はイタリアンデザインであり、都会的でしゃれた当時最先端のエクステリアだった。だから「DNコンパーノ」も同様に、最先端のデザインとする。これこそ名車復活の正しい手法といえる。
ただ、実車を見てちょっと驚いたのは、そのサイズだった。想像していたよりも、かなり大きい。サイズを確認すると、全幅は5ナンバー枠いっぱいの1,695mm、全長は4,200mmもあるという。搭載されるエンジンは1,000ccだが、ターボ付きなのでダウンサイジングされていると考えれば、このモデルがダイハツの言う通り「コンパクトカー」に属するのか、少し疑問に感じるかもしれない。シニア層狙いで売るならこのサイズで問題ないだろうが、若い女性なども取り込めそうな魅力があるので、もっと小さくしてかわいがってやれる雰囲気を出すと良かったのではないだろうか。
ちなみに、今回のダイハツブースはステージ上の最も目立つ場所に「DNコンパーノ」「DNマルチシックス」「DNトレック」の3台を並べている。いずれも登録車だ。もちろん軽自動車のコンセプトカーもあったが、展示としてはこの3台が主役であったことは間違いない。これは考えてみると大変なことではないだろうか。
ダイハツといえば軽自動車であり、つい最近、トヨタの完全子会社となった会社でもある。「パッソ」「ルーミー」のようなコンパクトカーをトヨタから任されているだけに、そのクラスの登録車を並べたのなら「半分はトヨタのために作ったんだな」と納得がいくのだが、「DNコンパーノ」「DNマルチシックス」「DNトレック」の3台は「パッソ」クラスよりはるかに大きい。「DNコンパーノ」「DNトレック」が5ナンバー枠いっぱい、「DNマルチシックス」に至っては全幅1,720mmで3ナンバーサイズになる3列ミニバンだ。
そこでダイハツのスタッフを捕まえ、「この展示は『これからのダイハツは大きいクルマもバンバン作っていきますよ』という意思表示ですか?」と聞いてみた。こういった挑発的な質問は笑顔でかわされるのが常なのだが、答えは自信に満ちた表情で「そう取ってもらってかまいません」。驚いて「トヨタとの住み分けは?」と聞いてみると、「その辺は偉い人がなにか考えてくれるでしょう」と笑っていた。
「DNコンパーノ」のレポートは以上だが、蛇足と知りながらもうひとつ、興味深いエピソードを追加したい。「DNコンパーノ」の横には、50年以上前の初代モデルの中から「コンパーノ ベルリーナ」が並べて展示されてあるのだが、どちらも外観カラーは鮮やかなオレンジ色。しかし、東京モーターショーのためとはいえ、初代「コンパーノ」を全塗装したりもしないだろう。するとあの色はオリジナルなのか?
ダイハツのスタッフに聞いたところ「お待ち下さい」と言われ、待っていたら別のスタッフがやって来た。そのスタッフが言うには、今回展示されている「コンパーノ ベルリーナ」はもともとあの色で、ショーのために塗ったのではないという。
筆者「じゃあ、当時オレンジ色がラインアップされていたわけですか?」
スタッフ「いえ、当時あの色は設定されていません」
筆者「じゃあ、誰かが購入後にリペイントした車両を見つけてきたのですか?」
スタッフ「いえ、あの車両は新車からのオリジナル塗装です」
筆者「???」
一瞬わけがわからなくなったが、さらによく聞くと、このオレンジ色の「コンパーノ ベルリーナ」は、当時製造された「コンパーノ」でただ1台だけ、製造時にカタログ設定のないオレンジ色で塗装された車両だというのだ。それは博物館にでも収蔵するためかと聞くと、そうではなく、いちユーザーが購入したものだという。そのユーザーが今日まで所有しているものを借りてきたそうだ。これから東京モーターショーに行かれる方は、ぜひこの「コンパーノ ベルリーナ」にも注目してほしい。