どん底からの逆転劇を成功させたのは、自信を持って送り出したメイン商品「よなよなエール」と、それを取り巻く極端な差別化を行った商品群の魅力、井手氏を中心とした意欲的な取り組みだ。
「誰も歩まない道を選びましょう。大手は分かれ道があった時、両方に人を送る。小さな会社はそれができないから選んで行く。私たちはその選択が極端なので、2度、3度選択すると同じ道を行く人がいなくなる」と差別化を極めてきたことを語った井手氏は、「ありふれた商品、サービスに消費者は飽きている。差別化は他社が真似を躊躇するくらい行うこと。SNSキャンペーンのような一見売り上げにつながらないような取り組みは顧客の心に入りやすい」とも語る。
もちろん、この考え方に最初から全社員がついてこれたわけではない。営業実績が悪くなる中、責任の押しつけ合いのような形で社内の雰囲気が悪くなっていたこともあり、簡単には前向きの空気を作れなかった中、井手氏は楽天の実施するチームビルディングプログラムに参加。3カ月の研修の成果を社に持ち帰った。
「一生懸命説明してもなかなかわかってもらえない。半分弱くらいの人がわかってくれたので、その人たちには私が講師になって教えた。最終的に合意できない人たちは、居心地の悪さから3年足らずで退職してしまった。人数は減ったが、全員が同じ方向を向いているから仕事はスムーズになった」(井手氏)
講演後のインタビューで、井手氏は「創業期の地ビールブームに次いで、今は2度目のクラフトビールブーム。最近、伸びが鈍化しており、またブームは終息するかもしれない。それでも、以前ほどの落ち込みはないはず。どんなものでも繰り返すブームの中で少しずつ市場を広げていくものだが、このクラフトビールブームが落ち着いた後にも、きちんとクラフトビールという市場を形成して維持して行くのが我々の役割」と語った。
クラフトビールメーカーは全体的にユーザー層が大手メーカー製品と比べて若いという特色があるが、その中でもヤッホーブルーイングはインターネット購買の35%くらい、都内に飲食店のアンテナショップ利用者の35%くらいが女性という特色を持っている。
井手氏は2008年に代表取締役社長に就任しているが、その頃まで店頭販売の成績はあまり回復せず、伸びた分の大半が楽天市場によるネット販売。一時期は半分程度がネット販売になっていた時期もあるというが、現在は約1/4程度がインターネット販売になっているという。
「2020年までにシェア1%を目指しています。大手にとって、1%というのはあまり魅力のある市場ではない。大勢にうける商品を作るのは上手ですが、こういう小さなところを狙うのは難しい。それでも大手に本気でやられたら負けてしまいますから、我々は躊躇するくらいのところを狙っていかなければなりません」と井手氏は、極端な差別化を続けていく意気込みを語ってくれた。