大手の真似ではない営業方法を考え、勉強する中で気づいたのが、楽天を利用したECへの営業のシフトだった。

「実は楽天と我々の創業は同年。楽天スタート時にショップを作った、楽天1期生なのです。しかし、当初は売り上げが好調なので楽天には目を向けていなかった。半年くらいごとに新しい担当になりましたと連絡をもらっても、用はないと電話を切ってしまうほどでした」(井手氏)

店頭で売れないものがネットで売れるわけがないとまで思っていたという井手氏が、楽天のことを思い出したのは、楽天が加盟店向けに送付している冊子に知った顔を見つけたからだという。

「たまたま見ていた冊子に、よなよなエールの缶をデザインしてくれた方が、副業の家具店オーナーとして出ていました。早速電話をして、ネットで本当に売れるのかというような話を聞きました」(井手氏)

ちょうどその頃、新しい楽天の担当者が非常に熱心だったことも後押しになったという。

「いつも、うちにはネットの担当者なんていないんだよと電話を切ると終わりだったのですが、彼女はめげずに毎日電話してくるのです」(井手氏)

担当者の熱心さに押されていた頃、楽天の三木谷氏から加盟当時にもらった手紙をたまたま見つける。同じ年に創業、当時は互いに成長を目指す立場だった両者の立ち位置は大きく変化していた。そして2004年、ヤッホーブルーイングが未だ冬眠期にある中、井手氏は営業部門から、それまで不在だったEC担当へとポジションを変更。これが、その後の楽天市場における急成長につながった。

後追いでない「躊躇するくらい極端」な差別化が鍵

「水曜日のネコ」

講演の中では、ヤッホーブルーイングの製品をいかに差別化しているのかということについても語られた。特にとりあげられたのが、女性をターゲットにした「水曜日のネコ」と、若年男性をターゲットとした「僕ビール、君ビール。」だ。どちらも一般的に、ビールをあまり飲まないと言われている層をターゲットにした商品だが、結果的には市場で独自のポジションを築いている。

「差別化は、他社が真似を躊躇するくらい極端に行う。ターゲットは狭く、具体的に。たとえば”水曜日のネコ”というビールの名前だと、金曜日には飲みづらいじゃないか、ネコが前に出ているけれど自分はイヌ派だ、というような人を切り捨てることになるかもしれない。だから大手はそういうことはできない。小さな会社だからこそやれる」と井手氏は差別化のポイントを語る。

個性的な製品ラインアップ

「水曜日のネコ」に関しては、さらに詳細な開発段階での狙いや、社内での賛否両論なども紹介。否定的な意見も多い中で考えるべきポイントは「今存在しないものは、消費者は判断できない。100人に1人の潜在需要があるかもしれないし、今はない需要が出てくるかもしれない」と狭い市場を狙ってリスクを取ること、小さく産んで大きく育てる考え方の大事さを井手氏は語った。

「水曜日のネコ」の狙い

「僕ビール、君ビール。」に関しては、プロモーションの手法が語られた。

「目に留める、強く記憶にとどめる、口コミしてもらうという手順で進める。業界初・インパクト・ユニークという3要素がそろうことも大事」とした井手氏は、実際の発売キャンペーンとして、発売前から商品を見つけたらネットに報告して欲しいとSNSで発信、当日にはオフィスの一角に作ったブースからインターネット動画配信を行うプロモーションを実施したことを紹介した。

「都内だけは社員が実際に店舗へ出向いてみようとやってみました。プロモーションにかかったのは、その電車賃の千数百円のみで、それでも2014年の発売から現在まで生き残っている」と井手氏は、ビール業界でいかに新製品が毎年多く発表され消えて行くのかとともに、その中で生き残るための工夫の成功例を語った。

若者をターゲットにした「僕ビール、君ビール。」

千数百円で大成功につながったSNSプロモーション