楽天が日本大学商学部の学生向けに、業界の第一線で活躍する企業人の講演を実施する寄付講座に、ヤッホーブルーイングの代表取締役社長である井手直行氏が登場した。当日は講義室をいっぱいにする約80名の学生が集まり、熱心に井手氏の講演へ耳を傾けた。
ヤッホーブルーイングは「よなよなの里エールビール醸造所」というショップ名で楽天に出店。クラフトビール専門メーカーとして、10年連続で楽天のショップオブザイヤーを受賞している。約4万5000店舗中、0.3%程度しか選出されない成績優秀店という評価を長年受け続けているにも関わらず、井手氏の談話は失敗談から始まった。
「1997年の創業直後は地ビールブームに乗って多数のメディアにも露出、売り上げは非常に好調だった。私は営業担当だったのですが、お客様のところへ『買ってください』と行くことなどなく、主に注文を断る係だった。それが地ビールブームの終戦を迎え、一気に売り上げは急落。売場そのものを失ってしまった」と、井手氏は流行に大きく左右された業績について語った。
看板商品の「よなよなエール」は、「家庭で飲める手頃な本格エールビール」を目指して作られたものだ。日本で大手メーカーが展開するラガービールとは違った味わいながら、米国の先行的クラフトビールの流行なども鑑みて、十分戦えるという判断で作られた。日本のビールにバラエティを提供し、新しいビール文化を創ることが存在価値だと考えていたという。しかし「よなよなエール」は、売り上げ低迷期に倉庫から駐車場へとあふれ出すほど在庫を抱えることになる。
「みなさん、人間ってどれくらいビールを開けると腱鞘炎になるか知っていますか? 1本の指で約100本です。ダメになったら指を変えて開け続けて、両手の指が全部ダメになるまで1000本。大手メーカーはきっと捨てるための道具も持っているのでしょうが、我々は手で開けて捨てるしかなかった。両手がダメになるとしばらくその作業はできないから、完了まで全社員で3~4年かかりました」と、井手氏は手塩にかけて作ったビールを大量廃棄するしかなかった悔しさを語る。
売り上げ低迷期には、長野県ローカルでのテレビCMをはじめとする、さまざまな施策を行った。しかし、大手メーカーと比較すれば垢抜けないCMは予算がかかるばかりで効果がなかった。これまで取引のあった店舗に再三顔を出して頼んでも置いてもらえず、居留守まで使われたという。さらに、現金が当たるキャンペーンを行っても、応募そのものがないという厳しい状態だった。