マツダは東京モーターショーで最も注目されるメーカーのひとつとなった。前回は「RX-VISION」で話題をさらったが、今回は2台もコンセプトカーを出展している。2台あってもそれぞれの印象が薄まることなどなく、むしろ相乗効果で2倍以上のインパクトを感じるのは、いまのマツダが期待を抱かせるメーカーだからだろう。

マツダのコンパクトハッチバックコンセプト「魁 CONCEPT」

まず「魁 CONCEPT(カイ・コンセプト)」。一見するとさほど奇抜さはなく、いままでの「鼓動」デザインそのままのハッチバックボディに見えるが、実物をよく見るとそうではない。とくにサイドビューの中央がくぼんだデザイン処理は従来モデルになかったものであり、同時に前回の東京モーターショーで発表された「RX-VISION」に通じるものだ。

現行モデルよりずっとふくよかな丸いラインなのに、きりりと引き締まって見えるところも「RX-VISION」と共通している。2ドアクーペであった「RX-VISION」のデザイン文法をハッチバックボディに適用した(そしてより市販車の仕様に近づけた)モデルが、この「魁 CONCEPT」といえるかもしれない。

このようなデザインももちろん注目点ではあるのだが、「魁 CONCEPT」の大きな意義は、やはりそのメカニズムにあるといえる。そのボディは新プラットフォーム「SKYACTIV-Vehicle Architecture(スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー)」によって作られ、そのエンジンは革命的な燃焼方式を実現した「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」が搭載されるのだ。

先に「SKYACTIV-X」から紹介しよう。まず、この東京モーターショーで発表される以前にわかっていたことの復習。「SKYACTIV-X」はガソリンを燃料にしながら圧縮着火を実現したエンジンで、点火プラグによる着火と違って混合気全体が同時に燃焼する。そのために燃焼が始まってから完了するまでの時間が短く、一部の混合気が燃えないまま排出されることがないし、なによりノッキングが起きない。

ノッキングはエンジンを高性能化させる上で最大の障害となる忌むべき現象なのだが、圧縮着火では根本的にこれが発生しない。これは非常に大きな利点だ。ただし、圧縮着火は着火するタイミングをコントロールしづらいという欠点があった。そこで、マツダでは圧縮着火に点火プラグを組み合わせるSPCCI(スパークコントロールドコンプレッションイグニッション)技術でこの問題を克服した。

長くなったが、このあたりまでが以前に分かっていた「SKYACTIV-X」の概要だ。

東京モーターショーのマツダブースでは「SKYACTIV-X」の展示も

では、東京モーターショーで新たに明らかとなった点は何か。まず、エンジンの実物が展示された。これはやはり見る者へのインパクト、説得力が大きい。ただし、エンジンは壁とディスプレイの間に、見る者が近づきにくいように展示されており、「見せたいけれど見せられない」といった複雑な事情があるようにも見えた。

燃焼のしくみについては、動画による非常に詳しい説明があり、従来のガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンと比較する形で解説されていた。「ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのいいとこ取りをした」といった内容の説明が行われており、これは一般ユーザーに訴求するという意味ではわかりやすい説明といえるだろう。

エンジン設計者に直接話を聞き、新たにわかったことは、このエンジンの圧縮比が16:1であり、これはガソリンエンジンとしては超の文字を3つくらい付けたいほどの高圧縮だが、じつは圧縮着火のエンジンとしてはありえないほどの低圧縮であること。

開発にあたっては、圧縮比をいかに下げるかが大きなポイントになったという。圧縮着火を起こすには圧縮比を高くしたほうが都合がいいが、あまり高くてはやはり高回転域などで問題が出るそうだ。ちなみに、従来のガソリンエンジンでは「SKYACTIV-G」の圧縮比が14:1となっており、これが世界最高の高圧縮となっている。つまり、マツダは高圧縮なガソリンエンジンにおいて、世界で最もノウハウを持っているメーカーなのだ。このことが「SKYACTIV-X」の開発においても大きな武器になったという。

燃料であるガソリンの要求オクタン価についても聞いたが、オクタン価が低いほうが都合が良いそうだ。点火のしくみを考えれば当然のことだが、従来のガソリンエンジンとは逆で常識が通用しないのは面白い。このエンジンが市販車に搭載された際は「ハイオクガソリンを使用すると燃費やパワーが低下します」といった注意書きが付くかもしれない。

「魁 CONCEPT」のもうひとつの大きな特徴である「SKYACTIV-Vehicle Architecture」についても、マツダのエンジニアから話を聞くことができた。冒頭でこれをプラットフォームであると紹介したが、事前にプレスリリースを読んだところによると、厳密にはプラットフォームの範疇を超える総合的な技術であるようだ。

そのあたりの具体的な説明を求めると、忙しい中にもかかわらず、かなり詳しく説明してくれたのだが、率直にいうと説明の内容が高度すぎて、いまひとつ理解が追いつかなかった。ただ、非常に興味深い話があった。すでに市販車に搭載されている「G-ベクタリングコントロール」(GVC)という技術があるが、このG-ベクタリングが「SKYACTIV-Vehicle Architecture」の開発のきっかけになったというのだ。

G-ベクタリングはエンジンを制御することでハンドリングを向上させるもので、どちらかというと根幹的な技術ではなく、枝葉の部分でのアイデアという印象がある。クルマづくりの根幹である「SKYACTIV-Vehicle Architecture」の開発と関係があるようには思えないが、そうではないそうだ。

G-ベクタリングではドライバーのハンドル操作に対し、きわめてすばやい反応速度でエンジンを制御する必要があり、これは自然吸気のスカイアクティブエンジンだからこそ可能だったという。「SKYACTIV-Vehicle Architecture」も反応速度をキーとした考え方があり、路面からの衝撃を遅延なく伝達するといったアプローチを行っている。

また、人間の骨格から分析して最も運転しやすいドライビングポジションを考え、それを実現するシートを作るというアプローチも行っているそうだ。自動車開発において、シートなどはかなり後のほうで検討するようなイメージがあるが、「SKYACTIV-Vehicle Architecture」ではシートがきわめて重要な役割を持つ。このあたりも従来の常識にとらわれない発想といえる。

マツダ「魁 CONCEPT」のエクステリア