この時期になると届く、保険会社からの「生命保険料控除証明書」。年末調整の時期が近づいていますね。払いすぎた税金が戻ってくる……というイメージを持ってはいるものの、具体的な仕組みが分からなかったり、知らぬ間に申請し忘れて損をしているケースがあったりするかもしれません。今回は年末調整の基本と、損をしないためのポイントについてお伝えします。
年末調整は何のため?
給与明細の中身をじっくりご覧になったことはありますか? 毎月のお給料からは所得税が引かれていると思いますが、この所得税、実は概算で算出された金額なのです。
個人から必要な情報や書類を集めることではじめて、会社は1月1日から12月31日までの個人の正しい所得税額を算出することができます。その正しい所得税額と、毎月の給与から概算として天引きしていた所得税額との過不足額を調整するのが「年末調整」です。
所得税を払いすぎないために「2つの控除」を把握・申請しよう
正しい所得税額を算出するためには、「給与所得控除」「所得控除」「税額控除」という3つの控除を考慮する必要があります。これらの控除があれば、課税の対象額などから一定の金額を差し引くことができるため、私たちが払う税金は少なくなります。
所得税額
=【課税所得】(給与収入-「給与所得控除」-「所得控除」)×【所得税率】-「税額控除」
※平成49年までは納めるべき所得税額×2.1%が復興特別所得税として上乗せされます
このうち「給与所得控除」とは、サラリーマンが「給与」で収入を得る場合に、課税の対象額から金額を差し引くことができるという制度です。差し引かれる金額は収入に応じて決まるので、控除額については会社が把握できます。
しかし「所得控除」と「税額控除」は、該当する控除と控除額を会社が把握できません。そのため、税金を払いすぎないように、私たちが把握・申請する必要があるのです。
年末調整で処理できる控除
それでは、具体的に控除の内容としてはどんなものがあるのでしょうか。まずは年末調整で処理できる控除について考えます。
<所得控除>
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・障害者控除
・寡婦(寡夫)控除
・勤労学生控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・基礎控除
<税額控除>
・住宅借入れ金等特別控除(次年度以降)
自宅に送られてくる「生命保険料控除証明書」は、これらの控除のうちの1つ「生命保険料控除」が適用されるための証明書となります。保険会社から送られてきた書類は、大切に保管しておきましょう。
また忘れがちなのは、正社員などの共働き世帯でも、配偶者が育休を取得した場合、「配偶者控除」が適用される可能性があるということです。育休中は、雇用保険から育児休業給付金が支払われることはあっても、給与が支給されないことが多いのではないでしょうか。その結果、配偶者の年収が103万円以下になれば、適用できます。ぜひ一度、確認してみてください。
年末調整で処理できない控除
また所得控除、税額控除の中には、年末調整では処理できず、個人で確定申告をする必要があるものもあります。
<所得控除>
・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
<税額控除>
・配当控除
・外国税額控除
・寄附金特別控除
・住宅借入金等特別控除(初年度)等
ふるさと納税(※)など地方公共団体に寄附した場合、特定の公共法人などに寄附をした場合は確定申告をすることで、控除が受けられる可能性があります。また医療費控除、医療費控除の特例であるセルフメディケーション税制も、自分で確定申告をする必要があります。
そして注意したいのは、税額控除である住宅ローン控除。初年度は確定申告が必要なので忘れないようにしてください(次年度以降は年末調整でOK)。
※ワンストップ特例制度を利用する場合は、必要書類を自治体へ提出することで確定申告不要となります
5年以内なら忘れていても大丈夫!
ここまでの内容で「あの時、申告しておけば良かった……」と悔しい思いをした人もいるのではないでしょうか。でも後悔するのはまだ早いです。5年以内であれば、納めすぎた所得税がある場合、確定申告をすることで所得税の還付を受けることができます。
慣れない子育てでお金のことまで手が回っていなかった方は、特に出産した年の状況を確認してみるといいでしょう。定期健診や検査、それに通院費用など、医療費の出費が重なっているはずなので、さかのぼって医療費控除が受けられる可能性があります。
苦手意識があるとつい避けがちな税金のこと。ほんのちょっと興味を持つだけで、年末調整で書く書類の意味が以前より分かるようになり、払いすぎていた税金に気づけるかもしれませんよ。
著者プロフィール
ラーゴムデザイン代表 長谷部敦子
ファイナンシャルプランナー、マスターライフオーガナイザー、メンタルオーガナイザー。父親の看取り介護、自身の結婚を通して、「心」と「お金」の整え方を知ることの必要性を感じ、学びを深める。2012年・2014年の出産を経て、2015年に「しなやかな生き方をデザインする」をコンセプトに起業。家計・起業・扶養などに関わるお金の悩みや、働きたい女性のメンタルについての相談・講師業を中心に活動。働く母の目線で、日々のくらしを快適にする仕組みづくりについての執筆も行っている。「生き方デザイン.com」