東アフリカのソマリア海域に、「海賊」が出没している。タンカーや商船が次々と襲われ、被害は甚大。EU諸国やアメリカは、軍の護衛艦を出動させて自国や国連の船をガードしている。日本でも海上保安庁及び自衛隊を派遣する方針で、関連法案について与野党間ですり合わせを続けている。
21世紀の今、遠く中東の海上で暗躍する「海賊」とは、一体どういうものなのだろうか。
身代金で大儲け。規模はもはや「主要産業」の域に
「海賊」と言えば、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャック・スパロウや、「ONE PEACE」の麦わらことルフィ、古くは「ピーターパン」のフック船長が頭に浮かぶ。宝探しの冒険に船出する、命知らずの海の荒くれ者というイメージは強烈だ。
現代のソマリアの海賊も、もちろん武装集団。だがその場のドンパチより、民間の船をまるごと拉致しての身代金要求がほとんどだ。人質は丁重に扱い、補給基地の港町・ハラデレには人質専門レストランもあるという。
交渉は、双方代理人によって行なわれる。「人」も「モノ」も「返してほしくばカネを出せ」。9月にはウクライナ船が積荷の戦車や対空砲ごと奪われ、海賊側は2,000万ドルを求めてきた。すると保険会社は「海賊」専門の交渉人が出て、320万ドルまで値切ったという。
年間の稼ぎは1億2000万ドル、地元地域への経済効果も3,000万ドルと言われ、巨大産業の様相を呈する。もはや海賊は無軌道なならず者ではなく、経済経路を有する職業集団なのだ。ソマリアの若者にとって、「海賊」が稼げる「職業」として人気が高いという、笑えない状況がそこにある。
ソマリアの無政府状態が根本原因
しかし莫大なカネのほとんどは、ソマリア内戦で使う武器の調達に使われる。軍閥やテロ集団と海賊は、密接につながっているのだ。
ソマリアはここ20年ほど無政府状態の混乱が続く。海賊行為も、もともとは国家の保護を失った漁民たちが、漁場を守るため自警したのが始まりと言われる。
歴史をひもとけば13~16世紀、日本近海に出没した倭寇(わこう)に類似しているかもしれない。初期の倭寇は生活のための漁師の略奪行為だったが、後半になるとやはり職業化していく。公式な勘合貿易の打ち切りも、密貿易としての倭寇の拡大に拍車をかけた。
海賊被害は、各国正規軍の護衛がついてから減少傾向にある。だがソマリア国内の混乱に解決の糸口が見つからない以上、海賊行為はまだまだ続くのではないだろうか。
文●仲野マリ(エフスタイル)