米労働省が10月6日に発表した9月雇用統計の主な結果は、(1) 非農業部門雇用者数3.3万人減、(2) 失業率4.2%、(3) 平均時給26.55ドル(前月比0.5%増、前年比2.9%増)という内容であった。
(1) 9月の非農業部門雇用者数は市場予想(8.0万人増)を大きく下回る3.3万人減となった。雇用者数が前月比でマイナスを記録するのは2010年9月以来7年ぶりであり、まさに「予想外」の減少であった。8月下旬から9月上旬に米南部を襲った大型ハリケーン「ハービー」と「イルマ」によって、失業者が出たほか企業の採用活動も鈍った公算が大きい。なお、7月分と8月分がそれぞれ修正された事もあって、雇用者数の3カ月平均は9.1万人増に急減速した。
(2) 9月の失業率は市場予想(4.4%)を下回る4.2%に改善して2001年2月以来、16年7カ月ぶりの低水準を記録した。ただ、労働参加率が63.1%に上昇(労働力人口が増加)する中で、失業率が低下するためには雇用者数の増加が必要なはずであり、(1) の内容とは相容れない結果と言える。家計を対象とする失業率調査では、自宅待機者が失業者としてカウントされなかった(申告しなかった)可能性もある。ハリケーンの影響による「歪み」を否定できそうにない。
(3) 9月の平均時給は26.55ドルとなり、前月比の伸び率は予想(+0.3%)を上回る0.5%増であった。前年比では2.9%増と、今年最大の伸び率を記録した(予想:+2.5%)。なお、8月の平均時給は26.39ドルから26.43ドルに上方修正されており、その上で9月の伸びが予想を上回ったのは強材料だ。ただし、ハリケーンによる一時的な失業が小売りや娯楽・観光業など比較的低賃金の産業に集中していたため、全体の平均時給が押し上げられたとの見方もある。ここでも、ハリケーンの影響を受けた可能性を排除できないようだ。
このように、米9月雇用統計はハリケーンの影響を様々な方向から受けたと考えられる。(1)の非農業部門雇用者数には「向かい風」になった一方、(2)の失業率や(3)の平均時給に対しては「追い風」になった可能性がある。
いずれにしても、9月雇用統計は「参考記録」の扱いであり、この日の米金融市場もそうした見方に沿った反応を見せた。米国株は小幅な値動きで高安まちまち、ドルと米国債利回りは発表直後に一旦上昇したものの、北朝鮮絡みの報道もあって上げ幅を失った。米連邦準備制度理事会(FRB)が12月に利上げを行うとの金利先物市場の見方にも大きな変化はなかった。
イエレンFRB議長は以前、ハリケーンが9月の雇用の伸びを著しく抑制するだろうと予言した上で、その悪影響は比較的早く薄れるだろうとの見通しを示していた。それだけに、次回10月雇用統計の結果が重要な意味を持つ事になりそうだ。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya