Appleは、同社が提供する製品およびサービスで、ユーザーのプライバシーと安全性をどう守っているか説明する特設ページと、iPhone Xで採用された顔認証機能「Face ID」に関する解説ページを公開した。
「プライバシー」のページ |
「プライバシー」のページでは「優れた体験ができるApple製品は、あなたのプライバシーも守れる製品です。」という見出しとともに、Apple製品がいかにしてユーザーのプライバシー保護と安全性の確保に努めているか説明している。
Apple Payを使った取り引きや、電話にEメール、メッセージのやりとりはもちろん、「ヘルスケア」アプリに格納されているデータ、Safariの検索履歴なども個人情報に含まれる。これらが流出しないよう、セキュリティを強化するのは当然のこととして、Appleは個人情報をどこまでビジネスに利用して良いものなのかという問題も提起する。広告主をはじめとした組織に売るために、ユーザーの個人情報を収集することはしないのだ。個人情報を売り払う企業を、名指しすることは避けているが、このページを開設したことは、そういった不誠実な商慣習を批判するものであるとも捉えられよう。
ユーザーの個人情報を第三者に提供するというのは誠実さに欠けるだけでなく、ユーザー体験を損ねるという側面もあるのに、それに気付いてる企業は少なく、気付いていたとしても意図的に無視しているという状況がある。見たいウェブサイトにアクセスしたら、見たくもない巨大な動画広告を見せられたといったようなことは多くの人々が経験しているはずだ。営利目的でウェブサイトを運営する上で、広告は不可欠な収益源だと考えられているから、その構造からの脱却が図られない限り、不健全な状態が続くとも言えるが、この特別ページは、単にApple製品の安全性をアピールするというだけでなく、あるべきビジネスモデルはどのようなものなのかと訴える内容になっているのである。
データを使って優れた体験を作り出そうとする時、Appleはユーザーのプライバシーを犠牲にしない方法でできるよう最善を尽くす。その一例が、いち早く採用した「差分プライバシー」だ。利用者のデータを暗号化し、それをほかの数百万人分のデータと組み合わせることで、その個人を特定できる具体的なものではなく、一般化されたパターンを参照するのだ。このようなパターンを、最も人気のある絵文字、QuickTypeの最も最適な候補、Safariのエネルギー消費率などの特定に役立てている。
また、話題の新モデル「iPhone X」で採用された顔認証機能「Face ID」についても解説ページが公開された。過日のスペシャルイベントで紹介されたFace IDは、誤認識を100万回に1回まで減らせるということだった。Touch IDの誤認識は5万回に1回の割合で起こりうるという話だったので、これは「激減」と言って過言ではない。
Face IDで利用される「TrueDepth カメラ」は、3万以上の目に見えないドットを顔の上に投射して解析し、顔の深度マップを作成して、顔の正確なデータを読み取り、顔の赤外線イメージもあわせて取り込む。新搭載の「A11 Bionic」チップのニューラルエンジンは、取得した深度マップと赤外線イメージを数学的モデルに変換し、それが登録済みの顔のデータと照合されることで、ロックが解除される仕組みになっている。
メークを変えた、髭を生やしたといった外見の変化もFace IDでは認識する。他社製スマートフォンだと、メガネかけるともうダメなんて話を聞くが、Face IDではそういったこととは無縁のようである。光がないところでも、赤外線カメラを積んでいるので、何の問題もなく機能する。
テック業界ではApple Watchを使ったダイエットブームが巻き起こっているようで、痩せ自慢の写真をあちらこちらで目にするのだけれど、そういった外見が大幅に変わってしまった人々は、実のところ、認証に失敗する可能性がある。認証に5回失敗した場合、パスコードの入力が必要となり、顔のデータを更新しなければならないが、これも安全強化策の一部なのである。
また、発表直後、寝ているところに翳されたらロックが解除されてしまうのではないかという懸念の声が広がったが、Face IDには注意知覚機能も搭載される。目が開いていて、意識してデバイスを見ているかを認識するので、知らないうちに誰かがロックを無断で解除することは非常に困難なことになっているとのことだ。
Face IDを利用するに際してはパスコードを設定しておかなければならず、以下の状況下では、セキュリティ強化のため、パスコード入力による本人確認が必要となる。
- デバイスの電源を入れた直後や再起動したとき
- デバイスが48時間以上ロック解除されていないとき
- デバイスのロック解除に過去6日半パスコードが使われておらず、過去4時間にFace ID でデバイスのロックを解除していないとき
- デバイスでリモートのロックコマンドを受信したとき
- 顔認証 5回失敗した後
- 音量ボタンのどちらかとサイドボタンを同時に2秒間長押しして電源オフ/緊急SOSを作動させた後
Face IDのデータも、顔の数学的モデルも含めて暗号化されデバイス内に格納される。こちらもiCloudやその他の場所にバックアップされることはないので、安心して利用できる。
これだけiPhone Xが話題となっているとなれば、購入を検討している人々に対し、Face IDに抱いている不安を払拭しておこうという対応であるのは言うまでもないが、これまで、プライバシーや安全性確保に真摯に取り組んできたAppleらしい施策であると評価できよう。