こんにちは! 広告写真家の熊谷直夫です。広告に使う商品撮影といえば、昔は商品の全面にピントが合ったシャープな写真が求められましたが、最近ではあえて前後をぼかしたユル~い写真にしてほしいといわれるケースが増えてきました。今回は、写真のボケについて考えてみましょう。
ボケによって主題を浮かび上がらせる
近ごろはフルサイズセンサーを搭載したの一眼レフやミラーレスカメラが広く普及したこともあり、「ボケのある写真」に魅力を感じる人が増えているような気がします。そもそも、なぜ人はボケのある写真に惹かれるのでしょうか。
その理由のひとつは、ボケは肉眼では見られない写真や映像ならではの表現だからです。人間の目と違って写真では、画面の中にボケた部分とボケていない部分を意図的に作ることが可能です。1人の人物のみにフォーカスを合わせ、その前後をぼかして表現する、といったことができるのです。
たったそれだけのことで、肉眼とは違った印象が生まれ、ありふれた日常から新鮮なビジュアルが浮かび上がってきます。リアリティや生々しさが消え、目の前の光景を幻想的に表現できるといってもいいでしょう。
ボケには、主題を明確にする効果もあります。写真の中にボケた部分があることで、ボケていない部分がいっそう際立ち、撮影者が何を撮り、何を伝えたかったのかが見る人に伝わりやすくなります。ボケによって奥行きや立体感を強調したり、ボケた部分を見る人に想像させたりすることも可能です。
情報量が多くなるパンフォーカス表現
とはいえ、なにもボケのある写真だけが魅力的というつもりはありません。シーンによっては、近景から遠景までの広い範囲にピントを合わせたほうが効果的なことも当然あります。こうした広範囲にピントを合わせた状態のことを「パンフォーカス」といいます。パンフォーカスで撮ると、画面内の情報量が多くなり、写真に密度や力強さ、現実感を与えることができます。
ボケ表現を狙うか、パンフォーカス表現を狙うか、あるいはその中間くらい状態にするかは、「被写界深度」によって調整します。被写界深度とは、画面内でピントが合ったように見える前後の奥行きのこと。主に、レンズの絞り値と焦点距離、撮影距離という3つの要素によって決まります。
具体的には、絞り値は小さくするほど、レンズの焦点距離は長くするほど、撮影距離は短くするほど、被写界深度は浅くなってボケ量が増えます。これらを逆にした場合は、被写界深度は深くなってパンフォーカスの状態に近づきます。狙いに応じて使い分けるといいでしょう。