山本: 少し未来の話をしたいと思うのですが、未来予測というのは研究領域を含めてどのレベルまで来ているのでしょうか?

坂田: 未来といった時、期間がいろいろあります。1~3年であれば大きな構造変化が起こらないので、データに基づいて予測するという常套手段で、ある程度予測できると思います。それより先になると構造変化が起こるので、だんだんと予測精度が下がってきます。

さらに10年、20年先となると、実は質的にかなり違うものです。単純な市場原理で10年後や20年後があるわけではないからです。たとえば、国が介入すると「20年後の産業構造の姿はこうありたい」とか、そういう国家論のようなものが出てきます。それを提示して誘導するからそちらの方向に行くわけで、従来の延長線上で予測できるものは、実は、みんなそれほど期待しているわけではないのです。

山本: なるほど。先生のところでやられている未来予測は、どのようなものでしょうか?

坂田: 科学技術の未来ですね。3年後、もしくは5年後にどういう研究が脚光を浴びそうかということを予測しています。これは基本的に過去のデータを学習して予測モデルを作るのですが、学術の中でも構造が比較的変わりにくいものを情報として使っています。たとえば、研究のトピック名を入れてしまうと頻繁に入れ替わる可能性があるので、そういうものではなく、引用ネットワークの構造など、比較的変わりにくいものを使っているつもりです。

これも10年後を見通そうと思うと多分同じ方法ではダメなのですが、全く意味がないわけではありません。10年に至るまでの5年目くらいまでを予測して、そこから後は人間が考えて伸ばすというようなことで、意味のある未来予測ができるのではないかと考えています。

山本: マーケティングの中でも、そうした予測で全体の動向を掴んだ上で、10年後、そこへ寄せて行くということが重要です。

ところで、現場ではもう1つのタイプの未来予測として前例がないような、たとえば急にハロウィンがはやる、携帯電話の広告で白い犬や桃太郎が活きるというような、何をもってそれがいけると思ったのかというような異常値検出も注目されているのですが、そちらはどうでしょう? たとえば論文だとディープラーニングは急に来ましたよね。そういう特異的な論文を発見するような研究はなさっていますか?

坂田: 元々、芽が全くない状態から検出することはできないのですが、大きな異常の前段階に、あるパターンで小さな異常が起こるというようなことは考えられます。そういう小さな異常をとらえて、大きな異常に移行するかどうかを予測するという方法はあり得るのではないでしょうか。過去、どういう小さな異常が大きな異常に移行しているのかといった特徴をとらえることは可能だと思います。

マーケットの中でも、どういうことがあると非常に限られたグループだけでやっていたことが大きな広がりを見せるのか、そういうことがモデル化できれば、商品は違っても、小さなグループで発火して全体に広がる可能性が高いものを事前に特定できると思います。全くないところからではなく、存在するものがヒットするかどうかの予測ですね。

山本: そういう小さな異常の特徴は、私はピンと来ないのですが、優れたマーケッターの方は「これは絶対ハネるから!」といったりしますよね。その時、何を根拠としているのかを特徴としてとらえていくのは大事ですね。

坂田: そうですね。優れたマーケッターの方が、何で判断しているのかをモデル化するということになります。

山本: マーケッターの方に特徴を語ってもらっても、きっと語り尽くせないでしょうし、網羅性があるわけでもない。その種を拾い上げて、AIがチューニングして行くみたいな形になりますね。

坂田: たぶん、パターンは1つではないでしょう。ある人はこういうパターンには強いが、別のバターンは見逃しているというようなことはあると思います。うちの研究室でも映画のヒット分析をやっているのですが、ジャンルごとに何を原因にヒットするのかが違いますよね。ある分野の映画ばかりが好きな人だと、そのジャンルのものはヒットするかどうかわかりますが、他のものは当たらないというようなことがあります。

山本: AIを使う利点として、そういった特徴を一旦落とし込めば、各人の癖を掴みつつ、集合させて全体の癖をとらえたプラットフォームを作れるということがありますね。