山本: コラボレーションのためには、マーケッターが知らなければいけないこともあると思います。たとえば、「AIの特徴量って何なのか」だとか、「こういう形式のデータを入れるとこちらが予測できるようになります」というようなことです。そういう意味で、私は人工知能のインプットとアウトプットの型のようなものは知っておいた方がいいのではないかと思うのですが、先生は、マーケッターはどのようなことを知っておくべきだとお考えでしょうか?

坂田: 同じような話をよくしています。企業では、AIもしくはデータサイエンスの人材がたくさんほしい、必要なら教育したいとおっしゃる会社が多くなっているわけですが、私は育成を考える人材の種類を少なくとも2つに分けて考えた方がいいと思っています。

1つは、基本的なリテラシーを持っている人です。もう1つは、実際に解析手法を設計して手を動かすAIマーケティングのプロです。この2種類は大分違う話なので、両方必要だと話してきました。

現場のマーケッターの方は、概ね前者でいいと思います。近い将来、データドリブンというのは、どこにでもあるごく普通の話になるでしょう。リアルタイムでデータを取り込み、アウトプットするようなことがもっと広がった時、企業の中でデータドリブンでないものは少なくなってくる。そうすると、「国語・算数・データサイエンス」というような感じで、社内の共通知識になっていくのではないかと考えています。そうなってくれないと、データ解析のプロが、結果を社内活用するためにいちいち説明が必要でとてもハードルが高くなってしまう。

そういう意味で、マーケッターの方も含めて基礎的リテラシーを高めておくことで、社内がデータドリブンな世界に移行する時、スピーディかつ柔軟に対応できると思います。そういう基礎的リテラシーの強化に、この本はとても有効ですね。

山本: ありがとうございます。

坂田: また一方で、ビッグデータ解析をやるプロの側でも、マーケットのことや現場のマーケッターの方が考えていることに興味を持つ必要があります。

山本: その通りですね。エンジニア側ではマーケティングのことや、マーケティング以外にもその分野の専門知識や商習慣などを知らなければならないと思います。書籍にもマーケティングというのはどういう業務があって、その中で何ができるのかというようなことを書きました。認知させ、興味を持って、調べて、購入というようなステップがあることまで説明しました。

坂田: そうなんです。認知することとクリックすることはマーケッターの方にとっては別なのですが、データをいじる側からすると認知するのもクリックするのも1つなんです。認知とクリックの違いはわかるかもしれませんが、他にも現象として同じでも質が違うものがあります。

たとえば、リアル店舗で3分で結果が出るならば来店中のお客様に何か伝えられますが、1時間後に結果が出ても、お客様は既に店を離れているので、それは使えないですよね。データをいじる側から見れば結果が出るということは同じなのですが、マーケッターにとっては違う。そういった、何に価値があるのかといったマーケティングの現場をよく知って考える必要があります。

遠くない将来登場する新技術活用やエッジAI

山本: IoTやVRなど、AIだけでなく、周辺の新技術を加えることでマーケティングの幅が広がるということもあると思うのですが、何かそういった動きは見えてきていますか?

坂田: あまりいい例を知っているわけではないのですが、今後、急速にスマート化が進むと考えています。現在、画像の送信量が増えていますが、おそらく通信量はどんどん増えるでしょう。われわれが想定している世界とは違う世界が3年後や5年後といった、そんなに遠くない時期に出てくると考えられます。

新しい使い方としては、リアルタイム解析の活用があります。たとえば、リアル店舗にお客様が滞在する時間は限られていますが、その間にお客様が話したことなどから解析したことを店員に伝えられるなら価値がありそうです。今はまだ、多くの情報を一度ストックしモデル化して、先々の商品構成等を考えるために使う形になっていると思うのですが。

山本: 私もまだ実現したものは見ていないのですが、中央に大きなAIがあるというだけでなく、ある程度学習され、汎用化された知識を持った上で、特徴量だけ引き継いでいける小さなAIが店舗ごとにあったら、リアルタイムに動かせるのではないかと思っています。

今、取り組もうとしているのは、店舗の監視カメラなどの映像利用です。たとえば、商品を手にとった人がよくわからないという顔をしているとします。それを感情認識などで読み取って活用するのです。「わからない人が多いようだから最初からディスプレイに説明を入れる」というようなことはしています。

坂田: 画像や映像を使おうと思うと、そういったエッジでの処理を考えないと通信量が多くなりすぎてしまいます。一方で、全部の情報を送るわけではなく、重要なものだけ送って蓄積するというような処理との組み合わせも出てくると思います。

山本: そうでうね。本当はこういった話が重要なのですが、AIというと「魔法の箱」みたいな話になりがちなので…。そういったことが少しでも伝わっていくといいなと思っています。