目を必要以上にこすったりかいたりするのは危険だ

皮膚にアレルギー性の炎症を起こすアトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う慢性的な疾患であることが知られている。小児がなるイメージが強いかもしれないが、成人以降もその症状に苦しむ人は少なくない。そしてこのアトピー性皮膚炎は、実は重篤な目の病気を引き起こすリスクを伴う疾患でもあるのだ。

今回は、あまきクリニック院長の味木幸医師にアトピー性皮膚炎が招く眼合併などについてうかがった。

眼球までかゆくなるアトピー性皮膚炎

そもそもアトピー性皮膚炎とは、アレルギーを起こしやすい体質の人や皮膚のバリア機能が弱い人に多く見られる皮膚の炎症を伴う病気のことを指す。アレルギーを引き起こすアレルゲンにはさまざまな種類があり、ダニやほこり、小麦や卵などの特定の食材がある。

「アトピー性皮膚炎では、肘の内側やひざの内側などをかゆがる患者さんが多いですね。それと首と顔もそうですし、ひどい人になると全身に炎症が出ます」と味木医師は話す。

顔に炎症が出る人は目の周囲にも炎症が出やすいが、アトピー性皮膚炎は眼球にまで影響を及ぼすという。そうなれば、眼球や目の周囲にかゆみを覚えてゴシゴシこすったり、かきむしったりしてしまいがちだが、このような行為は誤って眼球を傷つけてしまうリスクがある。また、目の周りの皮膚が傷つけばそこから細菌が感染し、病気になる可能性も出てくる。

このように、アトピー性皮膚炎の患者が目の病気を併発しやすい理由の一つとしてこの「かきむしり問題」があるが、その危険性を認識していない患者もいると味木医師は指摘する。

「アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、『アトピー性皮膚炎は目の合併症を招きやすい』ということを知らず、ガシガシと目の周りをかいてトラブルが起きてから後悔する人もいらっしゃいます。また、昼間は意識的にかかないよう我慢しても、夜に寝ているうちに無意識にかいてしまうという問題もあります」

アトピー性皮膚炎が招く病気

具体的にアトピー性皮膚炎によって併発する目の疾患としては、「眼瞼炎」「角結膜炎」「円錐角膜」「網膜剥離」「白内障」「巨大乳頭結膜炎」「角膜潰瘍」などがある。それぞれの疾患の特徴を簡単にまとめた。

眼瞼炎……発疹やただれ、かさつきなどの症状が現れ、アトピー性眼瞼炎の場合はかゆみも伴う。

角結膜炎……目やにや目のゴロゴロ感、充血、涙が出るといった症状が出る。春から夏に増える重症のアレルギー性結膜炎として春季カタルがあるが、春季カタルは角膜びらんや後述の角膜潰瘍、角膜の混濁などの重い角膜障害を合併して視力にも影響することがある。

円錐角膜……ドーム状になっている角膜が円錐状に突出して中央部分が薄くなることに伴い、不正乱視になる疾患。10代での発症が多いとされている。

角膜潰瘍……角膜の表面の上皮だけではなく、その奥の部分(実質)が濁ったり、薄くなったりする状態のことを指す。角膜潰瘍は再生不可能な実質に傷痕を残すため、失明に至るケースも出てくる。

巨大乳頭結膜炎……アレルギー性結膜炎が悪化した疾患で上まぶたの裏側(結膜)にブツブツができ、目やにが増えてかゆみが増悪する。症状が進行すると角膜潰瘍を併発する場合もある。

白内障……カメラのレンズの役割を果たす水晶体が加齢によって白く濁り、視力が低下する病気のこと。

網膜剥離……カメラのフィルムに相当する神経網膜が、土台部分である網膜色素上皮から分離(剥離)された状態を指す。網膜剥離を放置しておくと失明する恐れがある。

「アトピー性皮膚炎で巨大乳頭結膜炎や角膜潰瘍になってしまうと、失明する恐れもあります。つまり、『アトピーは失明につながることがある』ということです。また、白内障や網膜剥離は外傷が原因なのか、アトピー性皮膚炎自体が原因なのかはわかりませんが、特徴的な白内障だったり、網膜に非常に巨大な裂孔(穴)が確認されたりと、特殊な症例が多いです。そのため、手術をしても成功率が低くなるという問題が出てきます」

子どもに対してのケアをしっかり

アトピー性皮膚炎によるかゆみを我慢できず、どうしても発疹部分をかきたくなってしまうかもしれない。ただ、「かく」「こする」といった行為には多大なる危険が潜むのは明白。アトピー性皮膚炎は子どもに多くみられる疾患であるため、周囲の大人がしっかりとケアをしつつ、場合によっては眼科を受診させるようにした方がよいだろう。

※写真と本文は関係ありません


記事監修: 味木幸(あまき さち)

あまきクリニック院長、慶緑会理事長。広島ノートルダム清心高校在学中に米国へ1年の留学。米国高校卒業後に母校に戻り、母校も卒業。現役で慶應義塾大学医学部入学。同大学卒業後、同大学眼科学教室医局入局。2年間の同大学病院研修の後、国家公務員共済組合連合会 立川病院、亀田総合病院、川崎市立川崎病院・眼科勤務。博士(医学)・眼科専門医取得。医師として痩身や美肌作り、メイクアップまでを医療としてアプローチする。著書も多数あり。