「酸っぱい(酸味)」と「しょっぱい(塩味)」の区別がつきにくい、ファストフードやレトルト食品などの濃い味付けに慣れてしまって素材本来の味がわからない……。そんな子どもが増えている。「ウチの子は大丈夫?」「味覚はどのように育てたらいいの?」など、不安に思うママもいるのでは?

そこで、乳幼児の食に詳しい管理栄養士で、各大学で講師も務める太田百合子先生に「赤ちゃんはいつから味覚が備わるのか」について伺った。

赤ちゃんの味覚はいつから備わる?

赤ちゃんの味覚は生後半年ごろから発達しはじめる

太田先生によると、赤ちゃんの味覚は生後6ヶ月ぐらい、つまり離乳食がスタートする時期から発達しはじめ、10歳ごろにピークを迎えるが、成人した後も発達し続ける。人間の味覚は基本的に五味(甘味、旨味、塩味、酸味、苦味)からなり、赤ちゃんが最も好きなのが「甘味」と「旨味」だという。

「甘味」はもともと母乳に含まれている成分だ。ただし、ここでいう「甘味」とは、砂糖のような直接的なものではなくて、ご飯やパンなどの炭水化物が持つ、噛むうちに出てくる甘味のこと。「離乳食をおかゆから始める理由も、赤ちゃんが一番受け入れやすい味だからなのです」と太田先生は話す。

一方、旨味は一般的に「だし」の味と言われるが、正確にいうと、だしの素となる魚や肉といったタンパク質の旨味を指す。まずは、これら受け入れられやすい甘味と旨味からはじめ、徐々にバリエーションを広げていくのが、赤ちゃんの「味覚育て」の基本だ。

3回食に入ったら大人と同じ食事に慣れさせる

では、塩味や酸味、苦味についてはどうだろう。塩味はもともと赤ちゃんが好きな味だが、離乳食ではとかく薄味をすすめられる。それは、内臓機能に負担がかかることと、塩気が強いと素材本来の味がわからなくなってしまうためだ。

「ただし、3回食になると大人の食事に少しずつ慣れていく練習が必要です。赤ちゃん自身も、生後9ヶ月頃から大人と同じものを食べたいと思うようになります」と太田先生。1歳になっても素材にほとんど味付けをしなかったり、大人と別の献立にするのではなく、同じ皿から取り分けを。例えば煮魚なども、子どもの分は軽く水につけるなどし、味を薄くすればOK。大人と同じものを一緒に味わうことで、"食べる意欲"もかきたれられるそうだ。

ひと口に塩味といっても、醤油味や味噌味など調味法は様々。量に気を付けながら、多彩な味を取り入れていくと味覚の経験値がアップするとアドバイスしてくれた。

「酸味」や「苦味」はあせらず、徐々に克服すればいい

酸味や苦味は赤ちゃんにとって「腐敗」や「毒物」をイメージさせ、受け入れづらい。「乳児期には避けるべき味」だと太田先生は話す。

ただ、甘酸っぱいトマトなどは煮込んでしまえば酸味が和らぐし、ミカンなどの柑橘類も酸っぱいものの甘みがあるので、赤ちゃんでも意外と食べることもある。果物などは甘いヨーグルトと混ぜる、ほうれん草やピーマンなど苦味を感じる食材はだしをきかせて、みりんじょうゆなどで味付けしたり工夫をしてあげよう。自分がチャレンジして食べられた、という達成感の積み重ねも、味覚の発達には欠かせないものだ。

ただし、酸味や苦味の克服は個人差があるので、あせりは禁物。年齢や発達度合いを見ながら、少しずつなじませていけば良いという。

しっかり噛むことも味覚を育てる

「味を認識するには、なによりも食べ物を口に留めることが大切」だと太田先生は説明する。舌にのせただけで丸飲みしてしまう子がいるが、これでは味わったことにはならない。よくつぶしたり、噛むことで味を感じられるのだという。それは舌の動きや歯の本数とも関係しており、前歯が生えそろうまでは硬いものは咀嚼できないので、とろみをつけてあげたり、細かく刻むなど舌ざわりやのど越しをよくすることで、意外なほど上手に食べてくれることもあるそうだ。

さらに、一度まずいと言って拒否されても「自己主張があるのは当然」と捉えて、あきらめないことが肝心だ。しばらく間を置いたり、同じ素材でも異なる調理法で出してみるのがオススメ。洋食が好きだからと言って洋食ばかり食べていると、和食を好きになるチャンスを逃してしまう。味覚の幅を広げるカギは「いろいろな味を楽しませること」に他ならないのだ。

※画像はイメージ

太田百合子先生 プロフィール

東洋大学、東京家政学院大学など非常勤講師・管理栄養士。「こどもの城」小児保健クリニックを経て、現在は大学などの非常勤講師、指導者や保護者向け講習会講師、NHK子育て番組出演や育児雑誌などの監修を務めている。主な役職は、日本小児保健協会栄養委員会、東京都小児保健協会理事、日本食育学会代議員など。監修した著書は「はじめての離乳食 前半5~8ヶ月ごろ」(学研プラス)、「初めての幼児食 最新版」(ベネッセコーポレーション)など多数。