多くの人が一度は腰痛を経験したことがあるのではないだろうか。かくいう筆者も、数年前に急性腰痛で年末の深夜に救急搬送された苦い記憶を持つ。当時はあまりの痛みに寝返りを打つことさえできず、ただただつらい日々を過ごした。
腰は人が動作をする際の根幹を成す部分でもあるだけに、そこに痛みが発生するとQOLが一気に低下してしまう。腰痛になって初めて、その事実に気づかされるのだが、そもそもなぜ人は腰痛になってしまうのだろうか。その仕組みさえわかっていれば、腰痛は防げるのではないだろうか――。
そこで今回は整形外科専門医の長谷川充子医師に腰痛になるメカニズムやその主な原因、痛みの解消法などをうかがった。
――日ごろから何か腰に負担になるようなことをしている自覚はないのですが、ある日突然腰痛に襲われてひどい目に遭いました。人はなぜ、腰痛になるのでしょうか。
まずは、体の構造から簡単にイメージしていただきましょう。
体を支える柱となるのは、脊椎(せきつい)という背骨です。背骨は首から腰まで一連のつながりがあり、骨盤につながる仙椎(せんつい)の上に腰椎5個、胸椎12個、頚椎7個と脊椎骨が積み木のように積み重なっています。
上下それぞれの脊椎骨の間には椎間板(ついかんばん)があり、クッションの役割をしています。そして小さい関節でズレないようにかみ合わさり、靭帯で固定されています。さらに前面と後面の筋肉が支えており、骨に囲まれた中には脊髄神経が通っています。
寝ているとき以外は、主にその積み木のように重なった脊椎骨を中心として腰から上の体の重みを支えています。上半身を支えることや、「かがむ」「ひねる」といった多方向に動くことは毎日行われていますが、これらの行為などが腰に負担をかけています。実際、日常生活で腰に負担のかかる動作は多くあります。そして腰の骨や靭帯、椎間板や筋肉、神経に何かしら異常が起きると腰に痛みをきたすことになります。
――毎日無意識に行っている動作の多くが、腰にとって負担となり、痛みを誘発していたということですか……。では日常生活の延長線上で発症する腰痛ではなく、何らかの疾患が原因で腰痛が症状として現れることはあるのでしょうか。
例えば腹痛には胃腸炎や胃潰瘍、生理痛などいろいろな原因があるように、実は腰痛にも原因がいろいろあります。腰痛をきたす疾患としては筋筋膜性腰痛症や変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症、腰椎すべり症、化膿性脊椎炎、仙腸関節炎、転移性骨腫瘍、腰椎圧迫骨折、骨粗鬆症など、数多くが挙げられます。そのほか、内臓に原因があり腰痛をきたすケースもあります。
また、特に器質的な異常がなくても、加齢に伴い腰の痛みが出ることもあります。年齢とともに運動する機会がなくなり、筋力が次第に衰えていく一方で体重は増えてくる方によくみられると思います。腰への負担が大きくなるのに支える力は減っていくので、どこかで支えきれなくなり痛みとなって現れると考えられます。
――運動の重要性を再認識させられました。腰痛になってしまった際の応急処置として、一般の人でも簡単に痛みを和らげる方法は何かあるのでしょうか。
疾患にもよりますが、残念ながら一般的にはなかなか難しいのが実情です。
筋筋膜性腰痛症や変形脊椎症などで腰痛痛の症状がある場合は、腰痛の症状が強い急性期にはある程度負担をかけないよう安静にして、コルセットなどをしていただくこともあります。コルセットをお持ちの方は、腰の低い位置で装着していただくとよいでしょう。
ご自宅では「お風呂でゆっくり温まり筋肉をほぐす」「腰の筋肉をほぐすためのストレッチ」などをお勧めしています。基本は臥位(寝た姿勢)で行うストレッチで、気持ちのよいところでゆっくり伸ばすようにしていきます。
また、デスクワークなどで同じ姿勢が続き痛む方には、時間を決めてストレッチをすることを推奨しています。ビジネスパーソンは仕事に集中し、つい何時間も同じ姿勢をしてしまいがちです。仕事の区切りをつけて、上半身をひねったり、ゆっくりストレッチしたり、一旦立ち上がり腰を横に振ったりというような動作も有効な場合があります。そして症状が和らぎ亜急性期となると、今度は腰の負担を減らすための運動を勧めることがあります。
こういった方法はご自身で自宅でもできると思いますが、ストレッチの方法は痛みの部位によって異なります。正しいストレッチ方法などは医師にお尋ねください。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 長谷川充子(ハセガワ・ミチコ)
整形外科専門医。日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。日本整形外科学会認定スポーツ医。
大学病院の整形外科、総合病院の整形外科医長を経て、現在は整形外科クリニックに勤務し、整形外科の診療をしている。
En女医会所属。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。