9月24日、ドイツ連邦議会選挙の投開票が実施される。ドイツは連邦議会と連邦参議院の二院制だが、多くの面で前者に優位があるため、事実上の一院制とみることもできる。
メルケル首相は昨年、難民問題の扱いを巡って大いに批判を受けた。それでも、CDU(キリスト教民主同盟)※が第一党となって、メルケル首相の4期目が実現する可能性は高そうだ。
※本稿では、バイエルン州の地域姉妹政党であるCSU(キリスト教社会同盟)を含める
ただ、CDUが単独で過半数の議席を獲得するのは難しく、どの政党と連立を組むかが注目されるところだ。現在、CDUは最大野党のSPD(社会民主党)と「大連立」を組んでいるが、CDU内部ではSPDに対する拒否感が強く、SPD以外の政党との連立を模索することになりそうだ。
そのため、CDU、SPDに次いで、どの政党が第三党になるかが重要となってくる。事前の世論調査では、FDP(自由民主党)、同盟90/緑の党、左翼党、AfD(ドイツのための選択肢)の支持率が拮抗している。
FDPは、企業寄りの右派政党であり、減税を標榜し、ギリシャ支援などユーロ圏内の貢献には批判的だ。2009年まではSPD、13年まではCDUと連立政権を構成していたが、 前回の総選挙で得票率が5%を割ったため全議席を失った。
同盟90/緑の党は、旧東ドイツの民主化運動から発展した前者と、環境主義を第一に掲げる後者が統合した政党だ。脱原発を主張する親ユーロ政党だ。
左翼党は、CDUとSPDの大連立政権が誕生した前回選挙で、同盟90/緑の党を抜いて野党第一党に躍進した。旧東ドイツを支配していた共産主義政党に源流がある。一方、2013年に創設されたばかりのAfDは、EU離脱を最大の目標とする極右政党だ。CDUがこれらの政党と連立を組むことはなかろう。
CDUが、FDPと連立を組めば右寄りの、同盟90/緑の党と連立を組めば逆に左寄りの政権運営を意識する必要が出てきそうだ。CDUがいずれの党と連立を組んでも過半数の議席に達しない場合は、三党による連立交渉が浮上する可能性があるが、その場合、連立政権の軸足はブレが大きくなるかもしれない。
振り返ると、昨年は、6月の英国民投票でのブレグジット決定、フランスの国民戦線やイタリアの五つ星運動の健闘など、欧州各国でポピュリズムや反EUの動きが強まった一年だった。 しかし、今年に入ると、3月のオランダ総選挙での自由党の敗北、4-5月のフランス大統領選挙でのルペン国民戦線党首の敗北などもあって、反EUの機運が後退している。
そして、それはユーロ通貨の対米ドル相場の反転上昇とタイミングが同じようにもみえる。ドイツの総選挙によって、EUで主導的役割を担うメルケル政権の基盤が強化されるのか、それとも弱体化するのか。為替市場でも注目されるところだろう。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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