福岡出身者に懐かしのCMを尋ねると、何人かは、「チロ~リアン♪」のサウンドロゴで返してくれるだろう。愛らしいパッケージとおいしい焼菓子、そして商品イメージにぴったりなおしゃれCMは、当時の子どもたちにとって心くすぐられるものであった。今思い返してもメルヘンなシリーズCMの撮影秘話を、販売元の千鳥饅頭総本舗に聞いてみた。

チロリアン各種(写真は、バニラ、コーヒー、ストロベリー、チョコレートの4種類。チロリアンロングは1本税別70円)

チロリアンの原型は筒状の飴せんべい!?

本題の前に、まずはチロリアンを知らない人のためにこのお菓子について説明しよう。チロリアンとは、サクッと軽い食感に焼き上げたロール型クッキーに、口どけなめらかなクリームをたっぷり詰め込んだ銘菓である。

千鳥屋によると、誕生は昭和37(1962)年。京都からきたせんべい職人が筒状の飴せんべいを作っているのを見た先代社長の原田光博氏が、オーストリアの本に載っていた現地のお菓子と見比べながら中にクリームを入れたところ、大変おいしかったので商品化したという。ちなみに商品名は、当時の博多の人がよく「千鳥屋」のことを「チロリ屋」と言っていたことに着想を得ているんだとか。

商品に使用している発酵バターは、昔ながらの伝統的装置を使って生クリームを激しく摩擦する、「チャーン製法」によって仕上げた伸びのいいもの。多くの発酵バターは1時間で5t作られるが、チャーン製法では1日1~2tしかできないというから、その貴重さが分かるだろう。

あまおうチロリアン(チロリアンショート27本入/税別1,500円、18本入/税別1,000円、8本入/税別400円

いろいろなセット販売があり、「チロリアンミックス13」はチロリアンショート13本入りで税別500円などと、手頃な値段なのもうれしいところ。フレーバーは、バニラ、コーヒー、ストロベリー、チョコレートの定番4種類の他、甘夏、八女玉露、マンゴー、そして福岡市で採れたあまおういちごだけを使用したあまおうチロリアンの九州パラダイスシリーズも人気だ。

初代CM出演者の正体は……

さて、本題のチロリアンCMである。チロル風衣装をまとった出演者を見て、オーストリアまで赴いてカメラを回してきたと思っていた人は多いだろう。しかし、現地で撮影することになったのはCM制作の回数を重ねた後だという。

千鳥屋企画室に確認したところ、「初めの頃は阿蘇の放牧地での撮影でした。福岡に住んでいた米国人牧師の娘さん2人をスカウトして、チロル風衣装を着用して出演してもらいました」と驚きの回答が。しかも、「2本目以降、撮影隊は軽井沢、北海道と北上していき、最終的にはチロル高原(オーストリア)で撮影しました」と、なんともユニークな秘話まで明かしてくれた。

オーストリアの宣伝にも貢献

チロル高原で撮影したCMは、現地に暮らす人々の表情や生活の様子を収めたもの。以降、3年に1度チロルを訪れ、観光地や民族工芸の職人を紹介するシリーズCMを作り続けた結果、その実績が認められ、チロル州観光局と業務提携することに。

撮影にあたって、ヘリコプターやバルーンを提供してもらったこともあるのだとか。また、このお返しとして千鳥屋は、同社の菓子缶にチロル観光のシンボルマークを付けるなど、観光誘致に協力してきたそう。

さらに、チロリアンのCMと言えば、少年たちが歌っているヴァージョンを思い浮かべる人も多いだろう。こちらの出演者は「ウィーンの森少年合唱団」。同じウィーン市内の合唱団である「ウィーン少年合唱団」と制服も似通っているため間違えてしまいそうだが、ぜひ「ウィーンの森と言えばチロリアン」と覚えてほしい。

ウィーンの森少年合唱団もお気に入りのチロリアン♪

そして最後に、チロリアンに並び千鳥屋の顔として君臨する「千鳥饅頭」(2個/税別280円など)も紹介しておこう。福岡県産の小麦粉を中心に独自配合した粉と、白ざら、米飴、蜂蜜をてごねして焼き上げた生地に、北海道産の手亡豆を使った餡を包み込んだ同商品は、昭和2(1927)年の発売以来ファンに愛され続けている、福岡が誇る銘菓だ。

千鳥饅頭(2個/税別280円など)

同県出身の筆者にとっては、チロリアンともども第一級のソウルフード。福岡観光と合わせて、多くの人に楽しんでいただけたら幸いである。