9月12日(米国時間)に、新社屋Apple Parkの「Steve Jobs Theater」で行われたスペシャルイベントのキーノートは、Steve Jobs氏のモノローグから始まった。今年は初代iPhoneが登場してから10周年である。スマートフォン市場を開拓し、けん引してきたApple。成熟期を迎えて守勢にまわらず、新たな未来を見据えて「iPhone X」を投入する。その狙いは?

AppleをAppleたらしめるAppleの精神とは

照明が消え、漆黒のステージに「Welcome to the Steve Jobs Theater」という一文が浮かび上がる。そしてSteve Jobs氏の声が聞こえてくる。Jobs氏が手がけた新キャンパス「Apple Park」に設けられたオーデイトリアム「Steve Jobs Theater」のオープニングである。

iPhone 10周年のスペシャルイベントで「Steve Jobs Theater」のこけら落とし

There's lots of ways to be as a person, and some people express their deep appreciation in different ways,. But one of the ways that I believe people express their appreciation to the rest of humanity is to make something wonderful and put it out there. And you never meet the people, you never shake their hands, you never hear their story or tell yours. But somehow, in the act of making something with a great deal of care and love, something is transmitted there. And it's a way of expressing to the rest of our species our deep appreciation. So, we need to be true to who we are and remember what's really important to us. That's what's going to keep Apple, Apple, is if we keep us, us.

人として私たちはどうあるべきか。感謝の気持ちを伝える方法は人それぞれ、様々な方法がある。Jobs氏は「素晴らしいものを作って、それを提供すること」が効果的な方法の1つであると信じている。人々に必要とされ、人々から深く愛されるものを作ったら、それを通じて、会ったことも手を握ったこともなく、互いの話を聞いたこともない人にも何かを伝えられる。そのようにして深い感謝の気持ちを伝えることが、自分たちが自分たちであり続けるために大切なことであり、それが「AppleをAppleたらしめ続けていく」。

舞台に照明が戻ってきて、登壇したTim Cook氏がイベントの開幕の挨拶を行った。

「スティーブ (ジョブズ氏)の精神と色あせることのない哲学はAppleのDNAであり続けている」

Steve Jobs Theaterのオープニングスピーチの間は、いつも冷静なTim Cook氏も感情的になっていた

今年は初代iPhoneが登場してから10周年である。節目の年ともあり、今年9月に開催されるイベントで、Appleがデザインを刷新したiPhoneの新製品を発表すると期待されていた。またAppleの思想を凝縮した先進的なコンセプトとデザインで注目されるApple Parkを初公開するイベントとしても注目を集めた。そのため、今年の9月イベントは「iPhone Xイベント」とか、「Apple Parkイベント」と呼ばれている。

だが、イベントの主旨で表現するなら「"What makes Apple" イベント」だった。AppleをAppleたらしめるものが、いつでもAppleの進む方向を示すロードマップになる。そして、その道を進み続けるのがAppleである。2007年に初代iPhoneを発表した時に、Jobs氏はNHLのレジェンドWayne Gretzky氏の「私はパックが進む方向にスケートする、パックがあったところにはとどまりはしない」という言葉を引用した。Appleはとどまらない。だから、Apple Parkを建設し、そして今年「iPhone X」を投入する。

スマートフォン市場においてAppleは安泰な地位を確立している。しかし、今日のスマートフォン市場は成熟期を迎えており、高機能・高性能な端末が市場にあふれ始めている。市場の成長期には機能の追加や性能の向上で開拓者が優位を保てるが、デバイスが技術的に成熟し、市場が飽和に近づいていても、ただ機能や性能を上乗せし続けていたらやがて飽きられてしまう。そんなユーザーのためではなく、市場での優位性を保つための機能提案を続けて没落した例は電子産業では枚挙に暇がない。だからこそ今、AppleはAppleらしくあるべきなのだ。