アドビシステムズはこのほど、Adobe Creative Cloudの映像制作ツールのアップデート内容を先行公開した。オランダ アムステルダムで15日(現地時間)開催のIBC 2017にて発表されるもの。
今回のアップデートにより、Premiere ProではVR映像編集においてHMD映像空間内での再生・編集に対応した他、映像編集の効率向上をサポートする機能を追加。また、AfterEffectsではインフォグラフィックス制作などに活用できるデータドリブンアニメーション機能が搭載された。
VR編集機能を強化したPremiere Pro
Premiere ProはVR映像制作機能の強化が注目のポイント。再生環境の設定にOculus RiftなどのVR HMDが追加され、さらにVR HMDを装着したままVR空間に表示されるコントローラを使って、再生・シャトル・ジョグといった操作を行うことが可能だ。今バージョンのアップデートではVR空間内でのモニタリングに限られるが、同社によると今後もVR映像編集に関する機能強化が行われていく予定だという。
また、エフェクトパネルの「イマーシブビデオ」ではVR/360度映像に対応したエフェクトを追加。例えば、通常の「ぼかし」エフェクトでは、エクイレクタンギュラー形式画像の繋がりの部分に境界が生じるが、VR/360度映像対応のエフェクトならばその問題が起きない。
同社の調査によると、映像制作クリエイターが最も必要としているものは「作業時間の短縮」である。この要望に対応する機能が大きく2つ追加される。一つは、編集中に生じるギャップ(黒み)といわれる何もない空白のフレームを自動的に検知し詰めることができる「間隔を詰める」コマンドだ。長い映像作品の場合はこれを見つけて詰めるだけでかなりの作業量が必要だったが、自動化によりこれを大幅に削減することができる。
もう一つは、複数のプロジェクトを同時に開くことができるようになることだ。これまで他のプロジェクトから素材を取り込む場合はメディアブラウザを使って読み込んでいたが、ユーザーの要望があった複数プロジェクトの同時立ち上げに対応した。
これに合わせ、ネットワーク環境において編集作業の重複を防ぐ「ロック」機能が搭載された。プロジェクトパネルの左下に表示されるカギのアイコンが緑(オープン)なら編集可能、赤(ロック)なら他の人が使用中で読み取り専用となっていることを示す。共同作業中に同時に書き込みを行なってしまう状況を防ぐことができる。
昨年公開された映画『シン・ゴジラ』では、庵野秀明総監督のスタジオカラー、CG制作の白組、そして東宝の3ヶ所で同時に同時にPremiere Proを使って編集作業が行われた。当時はこのロック機能がなかったため、例えば白組でCG合成が終わればカラーへ電話をして次の作業へ引き継ぐ、という手間が必要だった。こうした共同作業の効率化にも有効な機能となる。
この他、前バージョンで追加された「モーショングラフィックステンプレート」機能が強化され、一度作ったテンプレートの再利用がより柔軟に行えるようになる。さらに「エッセンシャルグラフィックスパネル」の設定により映像の縦横比を変更する場合でもフレームに合わせた文字の位置調整が可能に。SNS対応やレスポンシブデザインのための作業を効率的にサポートする。
外部データ連携が可能になったAfter Effects
After Effectsの大きな新機能は、外部データを読み込んで動きを生成する「データドリブンアニメーション」機能だ。例えば、今後12時間の気温予測を表示するグラフィックに対して、スクリプトを使って参照先のjsonファイルを指定しておくと、動画再生時に読み込んだデータから最新のグラフを描画するというものだ。気象情報の他、株価やGPSなど、さまざまな分野でjsonに書き出されたデータを元にしたインフォグラフィックスを効率よく作成することが可能になる。
パフォーマンスの面では、レイヤーの位置・スケール・回転といったレイヤートランスフォームについても、CPUだけでなくGPU処理に対応。過去にフィルターのエフェクトがそうであったのと同様に、大幅に処理速度が向上する。また、要望の多かったキーボードショートカットの編集については、Premier Proと同様のインタフェースで簡単にカスタマイズが可能になる。
AIプラットフォーム「Adobe Sensei」で作業を効率化
オーディオコンテンツのミキシングや編集を行うAuditionでは、AdobeのAIプラットフォーム「Adobe Sensei」の技術を応用した「オートダッキング」機能を新たに搭載。ダッキングとは人の話が入る部分でBGMのレベルを下げること。エッセンシャルサウンドパネルで会話のラインを指定し、BGMのラインに対して「会話」を対象にオートダッキングを「有効」にすることで、この作業が自動的に行われる。自動調整後のマニュアル調整も可能だ。
この他、ビデオ編集で必要なタイムコードの表示に対応。外部コントローラからの制御では、新たにHUIに対応する。
さらに、現在ベータ版として提供されている「Character Animator」は今回のアップデートに伴い正式製品版へ移行する。これはIllustratorやPhotoshopで制作したアートワークに対して、Webカメラからのモーションキャプチャでリアルタイムにアニメーションをつけることができるツール。米国ではシンプソンズの生放送や、ライブトークショーでのホストとのトーク等でも使われているという。
ベータ版では、モーションキャプチャで動かない眉毛などはキーボードショートカットで制御していたが、アップデートによりコントロールパネルから選択することで切り替えが可能に。入力機器としてPCのキーボードだけでなくMIDIキーボードにも対応する。また、より表現力あるアニメーションのために、物理演算シミュレーションエンジンを搭載。モチーフに対する重力や弾性といった挙動が演算により自動的に表現できるようになる。
これらのアップデートは2017年後半のリリースが告知されている。なお、Adobe Creative Cloudの最新版が紹介されるイベント「Adobe MAX Japan」が11月28日にパシフィコ横浜で開催される予定となっている。