年間500億杯、金額にすると3兆円に達する日本のコーヒー市場。その4杯に1杯を供給しているのが、コーヒー販売で日本最大手のネスレ日本(以下、ネスレ)だ。日本で初めてフリーズドライ製法を導入したり、コーヒーマシンと専用カートリッジによる新たなビジネスモデルを生みだしたりと、この業界で革新を続けてきた同社だが、成熟しきったように見える日本市場にさらなる拡大の余地はあるのだろうか。同社で飲料事業本部長を務める深谷龍彦常務に話を聞いた。
日本にコーヒー文化を持ち込んだネスレの自負
「ネスカフェ エクセラ」と「ネスカフェ ゴールドブレンド」を2本柱とするネスレのコーヒー事業。エクセラでは「ごはん、納豆、味噌汁」といった典型的な日本の朝食シーンに「トーストとコーヒー」という新たなスタイルを提示し、今年で50周年を迎えるゴールドブレンドでは、単なる飲み物としてではなく、コーヒーを文化として日本に根付かせた自負があると深谷常務は語る。
味と香りが身上のコーヒーだが、ネスレはゴールドブレンドで日本初のフリーズドライ製法を導入。2013年にはインスタントコーヒーからの脱却を打ち出し、取り扱う商品を全て「レギュラーソリュブルコーヒー」に改めた。
レギュラーソリュブルコーヒーとは、ネスレ独自の技術「挽き豆包み製法」で作る新しいコーヒーだ。一般的に、レギュラーコーヒーは刻一刻と酸化して品質を落としていく商品だが、ネスレのレギュラーソリュブルコーヒーは細かく砕いた粉状のコーヒー豆を包み込んで粒状にすることで劣化を防ぐ。
モノとしての成長余地はわずか?
製品としてのコーヒーの品質を技術で向上させてきたネスレ日本だが、これ以上、コーヒー自体に、モノとしての革新の余地があるかとの問いに深谷常務は、「革新という言葉の捉え方にもよるが、ワオと驚くようなレベルのものは、0%ではないが非常に難しい」(以後、コメントは深谷常務)と率直に認める。
そもそも、インスタントコーヒーを世界で初めて商業ベースに乗せたのがネスレ(スイス)であり、その後も技術革新による品質向上を進めてきたわけだが、ここ数年はコーヒーの“モノ”としての側面よりも、コーヒーにまつわるサービスやシステム、つまりは“コト”としての側面に価値を見出し、革新の余地を模索している。「製品としてのブランドから、いかにしてサービスの要素を含めたブランドになれるか」がチャレンジだというが、その好例として、マシンとカートリッジという新しいサービス(売り方)では大きな成功を収めている。