便秘に悩む日本人は多い。厚生労働省が発表している「平成25年国民生活基礎調査の概況」によると、日本人の人口1,000人あたりの患者数は男性が26人、女性が48・7人となっており、女性の場合は20人に1人が便秘で悩んでいる計算になる。「何日も便が出ない」「お腹が痛い」などの症状に悩まされつつも、仕事や家事・育児が忙しくて便秘をそのまま放置している人も少なくないだろう。
だが、食物の不消化部分などの"不要物"がいつまでも体内にたまっているような状況が好ましいわけはない。場合によっては便秘が原因となりほかの病気に罹患する恐れもある。今回は消化器外科・外科の小林奈々医師に便秘が招く病気の種類とその症状についてうかがった。
――長期にわたる便秘は体に悪影響を及ぼす可能性が高いと思われますが、具体的に便秘が疾患を引き起こすことはあるのでしょうか。
便秘が続くことで発症する病気には腸閉塞や痔、口臭、肌荒れなどがあります。詳細な罹患率は不明ですが、腸閉塞はそれなりの頻度で我々は診療しています。まさに便が腸の中に詰まった状態であり、場合によってそれにより感染を起こしているケースもあります。重症なときは手術を行う場合もあり、死に至る症例もなくはないです。
次に痔についてですが、便秘になると排便時に肛門部に負担がかかるようになるため、痔を発症します。裂孔も然りで肛門部への物理的圧がかかることにより肛門部の皮膚や粘膜が裂けてしまうのです。口臭や肌荒れは便秘に伴う腸内環境の悪化により起こります。
「便秘が大腸がんのリスクになる」と言われていた時代もありますが、現在では研究により直接的原因とは言えないとされています。便秘は多くの方がなる病気でありながら奥が深く、さらなる研究結果が待たれます。
――腸閉塞を発病した際の症状を教えていただけますでしょうか。
腸閉塞の症状としては腹痛や腹部膨満、吐気、嘔吐、腰痛、食欲低下などがあります。腸閉塞までなってしまった場合は薬剤などで排便を促すことは難しくなっているケースも多く、手術をして便を摘出し人工肛門を造ることもあります。
ただ、このような重症になるケースは便秘になる素地として精神疾患や神経疾患、先天性疾患があることが主で、一般的な便秘では簡単にはならないのでご安心ください。
――便秘にならないのが一番ですが、もしもなってしまった場合は症状を重篤化させないことが肝要だということですね。家庭でも簡単にできる対処法にはどういったものがあるのでしょうか。
便秘になったときの対処法としては、まず食べ物を見直しましょう。食事量が少ないと便自体の材料が少ないため、便秘になりやすくなることがあります。食物繊維や適度な脂質を摂(と)ることも大切になります。
適度な運動を行い、腸に刺激を与えることも大切です。ツイストを加えた体操やストレッチでより刺激を与えたり、直接的に腹部を温めたりマッサージしたりすることで刺激を加えることも有効です。
私が診察室でお会いする便秘の方の多くが、お腹の筋肉が弱い印象があります。腹筋はお腹の部分のコルセットに当たります。腹筋が弱いと固定されている腸が下垂や前に出やすくなり便秘になりやすくなります。排便時にも腹筋はとても大切ですので、腹筋を意識することはとても重要になります。そして、食事や運動などのこれらの対策は便秘の予防にもなります。
――下剤という選択肢もあると思いますが、その前に食事内容や運動といったライフスタイルの改善を図った方がよいということですね。
下剤の乱用は習慣性になったり慢性便秘の原因になったりするため、薬を試す前に生活習慣を見直すことがとても大切になります。
最近では腸内フローラといって腸内環境を整えることが身体の免疫力を上げ、腸の働きをよくし(便秘予防)、生活習慣病の改善や老化予防に役立つと考えられています。ぜひ、腸の生活習慣を見直してみてください。
どうやったらいいのかわからないこともあったり、便秘で病院を受診することに抵抗がある方もいらっしゃったりするかと思います。それでも、一人で悩まずにどうぞお気軽に医療機関を受診してください。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 小林奈々(コバヤシ・ナナ)
消化器科、消化器外科、外科医
クリニックでは専門である消化器疾患、痔を含め全般的な内科疾患の診療に従事。週2回の病院勤務では消化器疾患の手術を行いながら、消化器疾患中心の外来診療に携わっております。
このほか予防医学、早期発見早期治療の重要さを伝えるべく講演や新聞、雑誌などへのコラム掲載を行っております。
患者さんを第一に考え、患者さんの目線にたちながら、常に笑顔で、女性外科医だから行える気くばりと柔らかさのある診療を行うべく日夜励んでおります。
En女医会所属。さくら総合病院、自由が丘メディカルプラザ勤務。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。