どういう状態を便秘というの?
最近お通じの調子がよくないと感じたら、多くの人が「あれ、便秘かな? 」と疑うはずだ。便秘の特徴の一つとして「排便の回数の少なさ」があることは広く知られているが、具体的に何日出なかったら便秘と呼ぶのかを知っている人となると、一気にその数が減るだろう。
そこで今回は、知っていそうで意外と知らない便秘の原因や仕組みについて消化器外科・外科の小林奈々医師にうかがった。
毎日排便があったとしても……
――便秘の仕組みについて伺う前に、まずは便秘の定義について教えてもらえますでしょうか。具体的に便が出ない日が何日続くと、「便秘」と考えられるのでしょうか。
実は確立された便秘の定義はありません。ですが、一般的に「排便が3日以上ない、または毎日あるが排便後に残便感がある」「便が硬い」「排便が困難な状態」を便秘と呼ぶとされています。
――確固たる定義がないことは意外でした。「排便が困難な状態」も便秘に該当するとのことですが、そもそも私たちの体はどのように排便をしているのでしょうか。
食物が口から入り食道を通ると胃の中にたまり、胃酸や消化酵素に溶かされたり分解されたりします。これは小腸での消化吸収をよくするためです。小腸で栄養分が吸収され、残ったものが便の素となります。大腸まで消化物が到達すると大腸で水分を吸収していきます。大腸では消化物は10時間~60時間かけて腸の中を動きます。
腸内に消化物が届くと神経伝達が起き、腸の動きが促されます。そして直腸まで消化物が届くと直腸刺激があり、それが腸管の動きをさらに促しつつ、脳へ「直腸に排泄物が届いている」という情報を送り便意を感じます。そして排便に至るわけです。
――大腸で10時間~60時間もの蠕動(ぜんどう)をしたうえで直腸に至り、実際の排便になるとは……かなりの"長旅"をしているんですね。その大腸での動きが不活発だと便秘になるのでしょうか。
便秘はさまざまな要因で発症します。実際のところは腸の動きと腸の内容が排便に関与するので、それらを阻害または機能低下させる要因が便秘の原因となりうるのです。
例えば、「不規則な食事」「生活習慣」「食事内容」「水分」「栄養状態」「精神的要因」「神経障害」「下剤などの乱用」「がん」「炎症」などの物理的障害や体質などです。このように数多くの要因で便秘が起きうるのです。腸の動きをよくして腸の内容が整うことによりしっかりと排便が促されます。どちらか一方でも不調だと便秘になってしまうことを覚えておいてください。
便秘に隠れた病気とは?
――特に注意しないといけない便秘の原因はあるのでしょうか。
最も注意すべきなのが大腸がんです。厚生労働省の「2015年人口動態統計の概況」によると、女性のがん死亡率の1位が大腸がんで、罹患率も男女合計で見ると1位です。そして、大腸がんの症状の一つとして便秘があります。がんによる物理的閉塞により便秘になるのです。年齢的な考慮ももちろん必要ですが、便秘がひどい場合は大腸カメラ検査を強く勧めます。
最近多いもう一つの疾患としては、過敏性腸症候群があります。これはがんや炎症などの物理的な疾患がないことが前提として、便秘や下痢などの症状がある疾患です。この病名を聞くと、「下痢」というキーワードが浮かんでくる方もいるかもしれませんが、便秘の症状が出現する「便秘型」の患者さんもいらっしゃいます。この疾患に関しては原因となるものを可能な限り取り去り、必要時に内服治療を行うことになります。
また、過度なダイエットも原因となります。前述した腸の動きが低下し、腸内容も乏しくなるためです。ゆきすぎた食事制限は返ってダイエットの邪魔になりかねません。
きれいにやせるためには腸を上手に使うことが有効です。なぜなら、腸が動くことによりカロリー消費が増せば体重が落ちやすくなりますし、腸内環境が良好に保たれるためお肌の状態がよくなり肌ツヤもよくなるからです。
腸内環境を整えることは、ダイエットのみならず健康・美容面にとっても重要であると今、注目されています。「健康的な腸」がきれいな毎日につながることを女性の皆さんは意識するといいでしょう。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 小林奈々(コバヤシ・ナナ)
消化器科、消化器外科、外科医
クリニックでは専門である消化器疾患、痔を含め全般的な内科疾患の診療に従事。週2回の病院勤務では消化器疾患の手術を行いながら、消化器疾患中心の外来診療に携わっております。
このほか予防医学、早期発見早期治療の重要さを伝えるべく講演や新聞、雑誌などへのコラム掲載を行っております。
患者さんを第一に考え、患者さんの目線にたちながら、常に笑顔で、女性外科医だから行える気くばりと柔らかさのある診療を行うべく日夜励んでおります。
En女医会所属。さくら総合病院、自由が丘メディカルプラザ勤務。
En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。