応用例
相互容量方式の場合、自動車にはさまざまな目的に対応できるタッチ・センサを配置できます。感受性が高いということは、接触だけでなく例えば近接感知にも利用できるということです。図1は、離れた位置から容量の変化を確認することで、運転手がドア・ハンドルに触れずに車のドアをロック解除できるスマート・キー車両エントリ・アプリケーションでの使用法を説明しています。図2は、このタイプの感知システムをパワーウインドウ・リフタ制御パネル・アプリケーションにも同様に適用できることを示しています。キャビン設計では、車の搭乗者が触れる保護カバーが、センサが取り付けられているPCBと直接接触する可能性が低いため、かなりのエアギャップが存在することになります。相互容量センサ構成を用いると、ライトガイドでこのギャップを埋める(光結合を行うのに複雑で高価)必要がなくなります。それにより、合理的で費用対効果の高いシステム・ソリューションを実現できます。
オン・セミコンダクターなどの半導体企業から提供される高いダイナミック・レンジを備えた最新の容量/デジタル・コンバータLSIテクノロジは、容量式タッチ・センサの性能向上をサポートし、自動車アプリケーションでの操作性を向上させます。例えば、オン・セミコンダクター製の「LC717A30UJ」は、相互容量タッチ・センサで使用するように設計されており、寄生容量キャンセル・メカニズムを利用してタッチ感度に関する新しい基準を設定します。また、自動車環境に多い電磁干渉の影響を軽減するのに役立つノイズ除去機能も内蔵しています。このLSIは、最大150mmの範囲での容量変化をフェムトファラッド(fF)レベルまで感知することができます。その結果、従来のタッチ機能だけでなく、近接検知や高度なジェスチャ認識も可能です。また、センサ/PCBと保護カバーの間にエアギャップがあっても動作できることも意味します。これにより、ユーザ・インタフェース設計にライトガイドを含める必要がなくなり、部品コストの削減を実現できます。
LC717A30UJは8個の容量感知入力チャンネルを備えており、スイッチ・アレイが必要なシステムで使用するのに最適です。その他の機能には、データ変換用のA/Dコンバータ、アナログ出力の容量変化を確認するデュアルステージ・アンプ、入力チャンネル選択用の統合マルチプレクサがあります。I2CおよびSPIシリアル・インタフェースは、システムの具体的なアプリケーションの要件に応じて選択できます。さらに、この堅牢なAEC-Q100準拠ICには、自動キャリブレーション機能が組み込まれているため、電極、線路容量、周囲環境に応じて、タッチ・センサ・システムの最適化と自己キャリブレーションを実行します。また、インストール・プロセスを簡素化し、フィールドにおけるユーザ・インタフェースの有効性を最大限に引き出し、正確で信頼性の高いシングルチップ・タッチ/近接検知ソリューションを提供します。
自動車分野には、タッチ制御技術に対する明らかに巨大で未開拓の潜在的需要がありますが、克服しなければならない大きな課題も存在します。この技術を駆使して新しい設計に取りかかる前に、エンジニアはこれらの要素を考慮しなければなりません。また、タッチ・センサの性能を向上させるためのシグナル・インテグリティと、それに応じてシステムを最適化するための構成能力を備えた半導体テクノロジを明確に規定することが必要です。
著者プロフィール
徳永哲也
オン・セミコンダクター
アナログ・ソリューションズ・グループ
インダストリアル&オフライン・パワー部門
車載用表示ドライバの開発を経て、車載用タッチセンサ開発に従事、ハードウェア開発、および製品企画において10年以上の経験を持ち、技術、マーケットの広範囲な知識を有する。