いわゆる「ギフテッド」などの特別な才能を有する子どもたちに合わせた、新しい教育プログラムを9月から実施する東京都渋谷区。公教育としてギフテッドに着目したプログラムを行うのは全国でも前例がないといい、注目を集めている。そんな中、プログラムの意図や具体的な内容が9月1日、渋谷区が開催したキックオフイベントで明かされた。
指導要領に基づいた教育、そうでない教育が共存する新しい教育を
渋谷区はギフテッドについて「全般的または特定の分野で高い能力を発揮する子ども」と定義。
プログラムは、小学3年生から中学3年生までの
(1)特別支援教室拠点校の巡回指導教員による指導を受ける児童
(2)情緒障害等通級指導学級に在籍する生徒
(3)長期欠席児童・生徒
が対象となっていて、本人と保護者が希望すれば参加することができる。
2017年度の実施日は、9月25日から2月27日(2018年)までの8回。9月25日には書道家の武田双雲氏、2月27日にはロボットクリエイターの高橋智隆氏による講義を予定しているほか、参加希望者の数やニーズに合わせて、その他のプログラム内容も調整していくという。
プログラム内容の開発に協力するのは、2014年から「異才発掘プロジェクト ROCKET」(日本財団と共同)を実施してきた東京大学先端科学技術研究センターだ。これまで、突出した能力を持ちながら現在の学校教育に馴染めない子どもたちを受け入れ、講義や実践型のプログラムを展開してきた。
同センターの中邑賢龍 教授に、渋谷区で想定されているプログラムについて尋ねると、「教科書では物足りない、分かりきっている子どもたちに何が欠けているかといえば、リアリティが欠けています。そこをさまざまな課題を通して認識させていく授業を企画しています」との回答が返ってきた。
「例えば今年も実施してみたいと思っているのですが、子どもたちから情報機器を取り上げて、紙と鉛筆だけを渡して、神社の鳥居がいくつあるか、1日中都内を歩いて調べさせてみます。何人かの子どもたちが調べてみると、鳥居の種類が2種類あることが分かります。インターネットで検索すれば1分以内で分かることかもしれませんが、これだけの時間と人をかけて、やっと鳥居が2種類あることが分かるのだという過程を学んでもらいます。知識を人から引っ張ってくるのではなく、知識を生み出す方法をこういう授業の中で教えていきたいと考えています」(中邑教授)。
中邑教授は、学習指導要領に基づく公教育、公教育から少し離れた教育が共存し、力を合わせることで、今までにない教育ができると考えているそうだ。お互いが分担しあいながら、ユニークな子どもたちの教育を先駆けて実践していこうというのが、今回の取り組みの背景にあるという。
区長「トライ&エラーを恐れずに進めていく」
キックオフイベントでは、渋谷区の長谷部健 区長と中邑教授の対談も行われた。
「世の中に合わない子どもは他の子と同じようにしないといけない。それが正しい道だし、そうでないと大学に行けないし就職できない。これからは、そういう時代ではなくなってくる。就職ではなく、自分で仕事を作る時代になっていく。(中省略)インクルーシブな教育は重要だが、それに合わない子どもたちにどういった環境を提供していくかは課題」と中邑教授。
長谷部区長も「(教育に関して)行政という立場にいると、一足跳びに(システムを変えていくことは)できない。今回の取り組みによって、少しずつ変えていきたいという思いでいます」と期待を寄せた。
一方で「全員がこれ(突き抜けた人材)になれるかというと、違う気がします。なれるチャンスがあるということを伝えることが大切で、どのように自分とフィットさせていくかということも考えてほしいですよね」と指摘。
これに対して、中邑教授は「実際にロケット(異才発掘プロジェクト ROCKET)に来ている子どもたちの中には、トップランナーの講義を聴いて、やっぱり自分は学校の中で集団で学んだ方が良いと気づく人もいます。これもすごく重要なこと」と答えた。
最後に「(この取り組みで)全てが解決するとは思わないが、天才がどんどん出てくるといいなと思います。(中省略)トライ&エラーを恐れずに進めていかないと、未来は見えてこない。恐れずにやっていきたい」と長谷部区長は語っている。
渋谷区では2017年度から、全ての小中学生にタブレット端末を貸与するという施策も行っている。ユニークな子どもたちの中には、字が書けないために学校教育に馴染めないという人も多く、ICTの活用も重要な課題だ。前例のない新たな取り組み、公教育にどのような変化をもたらすのか、注目される。