タグを正確に読み取る形とやさしいデザインの両立
今回の薬箱では、朝・昼・晩を1か月分、計90包ある処方薬にそれぞれ貼付したICタグ90枚について、デンソーウェーブと協働して制作したRFIDリーダ/ライタで常に読み取りを行っている。同社の情報コミュニケーション事業本部 セキュアビジネスセンター 課長の中川仁克氏は「薬包をどのような向きに配置しても、正確にすべてのタグの情報を読み取るようにすることが難しかったですね」と、振り返る。
「箱のふたを閉じることで電波が外に逃げないようになっているのですが、読み取ることのできない場所があると薬包を正確に把握することができません。90包すべてのタグをしっかりと読み取れるようになる薬箱の形と薬包の配置を見つけるまでかなりの時間を要しました。量産をする場合はさらなる精度向上が必要だと考えています」と、中川氏。
薬箱のデザインについては、「やさしく生活に溶け込むようなデザインにしたいと考えました」と、プロダクトデザインを担当した同社 情報コミュニケーション事業本部 トッパンアイデアセンターの佐藤慶太氏は語る。
薬を飲まなければいけないというストレスを与えずに、健康をケアしてくれ存在として受け入れてもらえるように配慮したのだという。
また「箱の中にあるセンサーが正確にICタグを読み取れなければならないため、中の仕様がなかなか決まらないという問題がありました。そのため中の仕様と同時並行で外側のデザインを進めました。ちなみに、中の仕様が確定してから最終的なデザイン検討までは実質2日ほどしかありませんでしたね(笑)」と、佐藤氏は振り返った。
実証実験では5回に1回以上の割合でアラートにより飲み忘れを防止
同社は2017年6月27日~7月4日の期間に、このIoT薬箱を使った実証実験を実施した。服薬習慣の有無を問わず、一般の生活者を対象に8日間、日常生活のなかでどれだけ同薬箱が機能するかを調査。手書きで薬を取り出したかどうかを記録するとともに、クラウド上でも服薬状況をモニタリングした。
その結果について、藤川氏は「クラウド上での服薬率は約96%と高い数字を示したうえに、手書きの記録との誤差も1%程度にとどまりました。また、飲み忘れを教えてくれるアラート機能によって服薬を思い出したというケースが5回に1回以上の割合であり、飲み忘れ防止について高い効果が認められました」と述べた。また、取り組みについて医師や薬剤師からは、「服薬状況がデータで正確にわかるようになると、問診時に参考になる」「オンラインで見守られている安心感がある」といったポジティブな声が多く寄せられたという。
今後は「今回の実証実験を通じて寄せられた声をエッセンスとして、ビジネスで使えるように改良を続けていきたいと考えています」と藤川氏。「このままでサービス化できるとは思っていません。まだまだクリアすべき課題は多いですね。あくまで今回はプロトタイプ。健康診断などのデータや診療データが医療ビッグデータとして統合されていく中に、服薬管理のデータも入っていければいいと考えています」と展望を語った。
プロトタイプはBluetoothでiPadと接続しているため、外出時などには服薬確認を行えないが、「Apple Watchなどと連動させていければと考えています」と、藤川氏はすでに課題に対する対応策についても考え始めている。
普段何気なく捨ててしまうパッケージにIoTを用いるという着眼点で、残薬問題の解決を図る凸版印刷。開発メンバーが話すようにビジネスとして成立させるためにはまだまだ課題が残っているが、あらゆるモノがインターネットとつながる未来に向けて、着実に歩を進めているといえよう。