昨年(2016年)、日本映画界を揺るがした超話題作『シン・ゴジラ』に対抗(便乗ともいう)し、巨大怪獣とプロレスラーがガチンコ対決を行う大怪獣映画『大怪獣モノ』を世に送り出したほか、『アウターマン』『ヅラ刑事』『日本以外全部沈没』『いかレスラー』など、次々と"どうかしている"作品を生み出して世間の話題を集めている、日本が世界に誇る"バカ映画の巨匠"こと河崎実監督の最新作『干支天使(エトランジェル)チアラット』がいよいよ完成。DVDリリースに先がけて、7月29日に舞台あいさつ付き特別試写会が行われた。
本作は、『抱かれたい道場』『バトル少年カズヤ』などを手がけたギャグマンガの旗手・中川ホメオパシー(的場健/小林優一)のコミック『干支天使チアラット』(リイド社)を原作とする、痛快特撮ヒロインコメディ映画である。主演のチアラット/根住野レミ役には希崎ジェシカ、チアミルク/牛尾くるみには辰巳ゆい、チアタイガー/虎縞コハク役には友田彩也香と、人気セクシー女優をキャスティング。セクシー女優に奇抜なコスチュームを着せ、常軌を逸したキャラクターたちと絡ませるという手法は、2016年に河崎監督が手がけたテレビシリーズ『侵略!ガルパンダZ』(東京MX-TVにて放送)を思わせる。美少女が軽いノリで地球を防衛してしまう『地球防衛少女イコちゃん』(1987年)をメジャーデビュー作とする河崎監督だけに、「実写特撮」「ヒロイン」「コメディ」という黄金の三要素を取り込んだ本作との相性はピッタリ。徹頭徹尾お話はユルく、しかしヒロインのエネルギッシュな魅力は存分に生かされているのが河崎作品の大きな特徴といえる。
本作ではさらに、チアラットの敵・シャノワール役に人気地下アイドルの姫乃たま、その配下マンチカン役で世紀の一戦『アントニオ猪木VSモハメッド・アリ戦』や謎の類人猿として騒がれた『オリバー君』などをプロデュースした伝説的暗黒プロデューサー・康芳夫と、多方面からグイグイ攻める意欲的にもほどがあるキャスティングが大きな見どころとなっている。
今回の『チアラット』映画化にあたって、製作費の支援をクラウドファンディングにて募ったところ、開始からわずか1週間足らずで目標額(250万円)を達成。さらに支援額は伸び、最終的には365万1,012円をカウントしている。この数字からも、河崎監督と中川ホメオパシーとのコラボに期待する、熱心なファンが多数存在していることがうかがえる。
『干支天使チアラット』スタッフ、キャストの面々。左から、左近洋一郎(ルノアール兄弟)、河崎実監督、的場健(中川ホメオパシー)、小林優一(中川ホメオパシー)、康芳夫、希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香、姫乃たま、中沢健(動く待ち合わせ場所) |
人間社会に発生する「恨み」のエネルギーを利用して「怨魔」を生み出し、人類抹殺を目論む化け猫・シャノワール(姫乃たま)の陰謀を食い止めるべく、神様の使いである幻獣ヌエ(谷口洋行)は、子(ねずみ)年生まれでけっこう卑劣な性格のOL・根住野レミ(希崎ジェシカ)を干支天使チアラットへと覚醒させる。はるか昔、ネズミに騙されたおかげで干支十二支に入ることが叶わなかった猫の恨みをぶつけるシャノワールは、配下のマンチカン(康芳夫)を送り込むが、お局様から虐められている孤独なOL・牛尾くるみ(辰巳ゆい)がチアミルク、そして過去の強烈なトラウマから大人の男性に恐怖を抱くOL・虎縞コハク(友田彩也香)がチアタイガーと、干支天使が次々に覚醒していく。果たして干支天使たちは、人類最大の危機を救えるのだろうか……。
原作では女子高生だったレミ、くるみ、コハクはみな「十西(じゅうにし)食品」のOLに設定変更。現代社会特有のストレスともいうべき心の闇をそれぞれかかえているOLたちが大昔からの奇妙な縁によって仲間となり、独特な「どうかしている」戦い方で敵に挑んでいく。各キャラクターの性格設定、怨魔サソリヲの個性的なルックスなどは中川ホメオパシー作品がそのまま実体化したかのようなハマり具合な上に、河崎監督の作品らしく名作特撮テレビシリーズのパロディが随所にちりばめられているという、非常に自由な作風のエンターテインメント特撮ヒロイン映画が誕生している。
原作者の中川ホメオパシー(的場健/小林優一)と共にステージに立った河崎監督は、「最初、この漫画を読んだとき『ああ、これは狂ってるな』と思ったんですよ。で、俺ならこれを実写化できると確信したんです(笑)」と、原作を読んで一目惚れした経緯を話した。これを受けて的場氏は「最初はドッキリかと思った」と、自身の作品で実写映像化オファーが来るとは予想もしていなかったことを明らかにした。一方の小林氏は「実現するのかどうか不安でしたが、ほんの数日で目標額が達成されてよかった」と、クラウドファンディングで多くの出資者が応援してくれたことに感謝を表していた。
河崎監督が「この映画の目玉は、なんと康芳夫さんに出演していただけたということです。もう奇跡に近い出来事。康さん、企画の話を聞いたときはどう思われましたか?」と尋ねると、康は「日本の映画でパロディとかナンセンスコメディとか、あまり観ていなかったので、今は奇妙な印象です。これって何なんだろうか(笑)。役者としては素人ですから、共演のみなさんにはご迷惑をおかけしていなかったかどうか、そんなことばかり考えています」と謙虚に答えた。これを受けた河崎監督は「やっぱり役者ってのは存在感ですから! セリフをうまくしゃべるだけで存在感のない人がいる中で、康さんの存在感はすごい」と、80歳にしていまだエネルギッシュな康の強烈なパーソナリティを絶賛。
実際、康は映画の随所で非常に印象的な登場の仕方をしているので、映画を観終わった後は康の怪演の記憶のみが残った、という人も少なくない。河崎監督は「本職の俳優さんって、カットをかけるまで芝居をしているじゃないですか。でも康さんは俺(監督)のことを気にして、『これでいいですか』って途中でカメラのほうを見ちゃう(笑)。こっちはもっと芝居していてください!って思うんだけど、これはうれしい誤算でしたね」と、監督も予期せぬ独特な演技を披露した康を、改めて褒めたたえていた。
主演の希崎は「クラウドファンディングって何?というところから始まった」と、本作の企画が大勢のファンの愛に支えられていることに喜びを表し、辰巳は「原作を読んで、本当に実写化できるか心配だったけれど、完成した映画は原作ファンも絶対満足します。さすがは天才・河崎監督」と監督の異才をリスペクト。友田は「私たちの演じた干支天使が原作のファンの方たちにどう受け止められるか、反応が気になります」と、DVDを観たファンの感想に興味を示していた。
もともと原作漫画を読んでおり、河崎監督が実写化をすると聞いていた姫乃は、その後で自身がシャノワール役にキャスティングされて驚いたという。姫乃は撮影時を振り返り、「強く怖いシャノワールを演じたつもりですが、私が演技をするたびに監督が『はいカットカット、お遊戯お遊戯!!』って言われて、それが私の心に刺さっていました」と、自身の独特な「棒読み」セリフについて言及。
これを受けて河崎監督は、「この映画にはいろんな見どころがあるけどね、姫乃たまの演技、これが衝撃的すぎるんだよ(笑)! 1984年『ゴジラ』に出て来た沢口靖子をほうふつとさせる棒読みを楽しんでください」と、今や日本を代表する大女優がデビュー直後の作品で見せた初々しすぎる演技を例に挙げて、姫乃の独特な演技のかわいい部分をぜひ観てほしいと語った。
姫乃は「劇中でネコビームを発射する場面があるんですけれど、監督からは『もっと強く、強く!』と言われてて、私としては強くやってるけどなあ、と思っていたんです。でも映画を実際に観たら、ぜんぜん強くないですよね(笑)」と、終始マイペースで語って河崎監督や共演者からあたたかい目で見られていた。
やがてステージには、本作に「友情出演」しているルノアール兄弟の左近洋一郎氏、そして劇中の回想シーンとして中川ホメオパシー作品『抱かれたい道場』のノボルを演じた中沢健氏が登壇。中川ホメオパシーの2人から「ノボルの演技はすごい」と絶賛された中沢は本職が作家であり、役者としてはもちろん素人だが、「童貞の役なら気持ちがよく解るので演じられる」と、本作の役どころに強い自信のほどを見せた。
試写を観た多くのファンから満足度の高い声援を浴びた中川ホメオパシーと河崎監督は「ぜひ第2弾も作りたい」とやる気満々。「次回作があれば、康さんにまた出てもらいたいですね。お願いします!」と河崎監督は今から康に再度の出演をさりげなく依頼する一幕もあった。
『干支天使チアラット』は2017年9月1日に一般商品としてDVDリリースされるほか、9月3日には渋谷ユーロライブにて一度限りの劇場上映が行われる。舞台あいさつには河崎実監督をはじめ、康芳夫、希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香、姫乃たまが出演予定。会場では『大怪獣モノ』『侵略!ガルパンダZ』でおなじみ中村遼が作曲した主題歌『干支天使チアラット』のCDも発売されるという。
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。