8月24-26日、米ワイオミング州のジャクソンホールでカンザスシティ連銀(※)の年次シンポジウムが開催される。世界中から中央銀行関係者が集う会合で、今年のテーマは「力強いグローバル経済を育む」。
※ 米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が傘下に抱える12地区の連邦準備銀行のひとつ。
例年の同シンポジウムでは、FRBはもちろんのこと、その他の中央銀行の今後の金融政策に関してヒントが出されることもあり、世界の金融市場関係者が注目してきた。今年の詳細なプログラムは24日になるまで明らかにならないが、公式、非公式の中央銀行関係者の発言に対して金融市場が反応する可能性は十分にあるだろう。
今年6月にジャクソンホールの前哨戦とも言える会合があった。26-28日にポルトガルのシントラで開催されたECBの年次シンポジウムである。そこでは、何人かの中央銀行総裁が、利上げや量的緩和の縮小といった金融政策の正常化に関して市場の想定以上に前向きな発言を行った。
まず、FRBのイエレン議長は、金融政策の正常化をゆっくりと進める意向を表明した。これは従来とほぼ同じ。
一方、BOE(英中銀)のカーニー総裁は、金融緩和をいくぶん解除することが必要になる公算が大きいとした。従来は、ブレグジットを懸念して金融緩和を継続する意向を示していたので、スタンスが変わったとの印象を与えた。
BOC(カナダ中銀)のポロズ総裁は、「(過去の2度の利下げが)役割を果たした」との6月上旬の発言を繰り返し、利上げに向けて意欲をみせた。そして、実際に7月12日に利上げに踏み切って、その発言を裏付けた。
ECB(欧州中銀)のドラギ総裁は、ユーロ圏の景気や物価に対して楽観的な見解を示す一方で、金融緩和継続の必要性にも言及した。ただ、「デフレ圧力がリフレの力に置き換わった」との発言があり、市場は現在も実施しているQE(量的緩和)の縮小が視野に入ったと受け止めたようだ。
日銀の黒田総裁は、質的・量的緩和が効果を発揮してきたとしつつも、それが引き続き必要だとの見方を示した。
6月下旬から7月上旬にかけて、盛り上がった世界的な金融政策の正常化の観測は、実際に利上げに踏み切ったBOCを除いて、その後はやや下火になっているようだ。果たして、今年のジャクソンホールのシンポジウムでは、中銀関係者からどのような見解が示されるのか、非常に興味深いところだ。
参考として、以下の通り、近年のジャクソンホール・シンポジウム(いずれも8月下旬に開催)のトピックスを紹介しておこう(「 」はテーマ)。
2016年「将来に向けて弾力性のある金融政策のフレームワークをデザインする」
イエレン議長が「労働市場の持続的な堅調さと、我々の経済・物価見通しに照らせば、利上げすべき論拠がここ数か月で強まっている」と述べた。そして、同年12月にFRBが利上げを実施(リーマン・ショック後の2度目の利上げ)。
2015年「インフレのダイナミクスと金融政策」
イエレン議長は欠席。フィッシャー副議長が講演し、「インフレ率が高まると信じる正当な理由がある」と述べた。そして、同年12月にFRBがリーマン・ショック後初の利上げに踏み切った。
2014年「労働市場のダイナミクスの再評価」
イエレン議長が、「経済が失望させられるようなものになるならば、将来的な金利の軌道は現在われわれが想定しているよりも、さらに緩和的になる公算が大きい」と発言。市場における利上げ観測が後退した。
一方、ECBのドラギ総裁が、「ユーロ圏のインフレ期待が大幅に低下した」、「政策姿勢を一段と調整する(=金融緩和を強化する)用意がある」などと発言。ECBは、シンポジウム直前の6月5日にマイナス金利を導入していたが、翌15年1月22日にQE(量的緩和)を決定。
2013年「非伝統的金融政策のグローバルな意義」
5月に金融緩和縮小を示唆した発言が金融市場を混乱させたこともあってか、バーナンキFRB議長は欠席。代わりにイエレン副議長がパネル討論に参加したが、明確なヒントはなかった。
2012年「政策環境の変化」
バーナンキFRB議長が、労働情勢に懸念を示しながら、「必要に応じて追加緩和を行う」と述べ、QE3(量的緩和第3弾)の実施を示唆。実際に9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で正式決定した。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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