皆さんは、健康寿命という言葉をお聞きになったことがありますか? 健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活を制限されることなく生活できる期間(※1)」 のことです。この健康寿命、当然のことながら平均寿命よりも早くにやってきますが、日本では、現在、この健康寿命と平均寿命の差を短くすることが課題となっています。なぜでしょうか?

※1 厚生労働省 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料 24ページ

問題は健康寿命と平均寿命の差

平均寿命と健康寿命の差は何を表しているのか考えてみましょう。それは、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味しています。健康ではない期間が長くなれば、それに伴い医療費や介護費用も増えることが予想されます。

健康寿命とは何か(画像はイメージ)

反対に、その期間を短くすることができれば、個人の生活の質の低下を防げるだけではなく、社会保障負担の軽減も期待できます。したがって、国も「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」を目標値として定め(※2)、健康ではない期間の短縮に取り組むことになったのです。

※2 厚生労働省 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料 27ページ

実は日本の健康寿命は3つある

それでは、私たちの健康寿命と健康ではない期間はどのくらいになるのでしょうか。厚生労働省によると、平成25年の健康寿命は、男性71.19年、女性74.21年となっており、健康ではない期間は、男性9.01年、女性12.40年になっています(※3)。

健康ではない期間が男性9.01年、女性12.40年と聞いてどう思いましたか? 大体予想通りだったでしょうか、それとも長いと感じたでしょうか。人それぞれ、いろいろな感想をお持ちになったかと思いますが、まず確認しておくべきことがあります。それは、この健康寿命をどのように計算しているのかということです。

前述の厚生労働省が計算した健康寿命では、健康な期間を「日常生活に制限のない期間の平均」としています。具体的には、厚生労働省が行う国民生活基礎調査における質問で「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という問いに対して「ない」と回答した人を日常生活に制限なしと定め、計算しています(※4)。

実は前述の健康寿命ほど知られていないのですが、厚生労働省は他の指標でも健康寿命を計算しています。それが「自分が健康であると自覚している期間の平均」と「日常生活動作が自立している期間の平均(平均自立期間)」という指標です。この2つの健康寿命は、前述の健康寿命とは何が異なるのでしょう。

※3 厚生労働省 健康日本21(第2次)分析評価事業 現状値の年次推移 別表第一
※4 厚生労働省 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料 29ページ

3つの健康寿命の違い

「自分が健康であると自覚している期間の平均」については、これも国民生活基礎調査における質問で、「あなたの現在の健康状態はいかがですか。あてはまる番号1つに○を付けてください」という問いに対して「よい」「まあよい」「ふつう」「あまりよくない」「よくない」から選択してもらい、「よい」「まあよい」「ふつう」の回答を健康な状態とし、「あまりよくない」「よくない」の回答を健康ではない状態とみなして計算しています(※5)。

この指標による平成25年の健康寿命は、男性71.19年、女性74.72年となっており 、前述の健康寿命とほぼ同じ値となっています(※6)。厚生労働省によると、主観性の強い「自分が健康であると自覚している期間の平均」の指標は、客観性の強い「日常生活に制限のない期間の平均」の指標を相互に補完するものと位置付けているとのことです(※7)。

前述の2つの健康寿命が、対象者自身が調査票の質問を読み、回答を記入する自記式調査を基にしているのに対して、「日常生活動作が自立している期間の平均」では、介護保険において要介護2以上の認定を受けていない人を健康とみなし、それ以外の要介護2~5の認定を受けた人を健康ではないとして計算しています。

平成25年のこの指標による健康寿命は、男性78.72年、女性83.37年となっています(※8)。この計算方法によると、健康ではない期間は、男性1.49年、女性3.24年となり、前述の2つの健康寿命とは約8~9年の差があります。

私たちは、この差をどう理解するべきでしょうか。どちらかが正しく、他方が間違っているということではありません。使用している指標が異なるだけでどちらも正しいです。紛らわしいとは思いますが、健康を多面的に捉える工夫といえます。しかしながら、実際は都合よく使われていることもあるでしょう。 例えば、私たちに危機感を持たせたい場合は、短い健康寿命を使用し、逆に安心させたい場合には、長い健康寿命を使用するといったことが考えられそうです。したがって、私たちは、それぞれの健康寿命の指標の違いを把握し、健康寿命を使い分けることが重要になってきます。

※5 厚生労働省 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料 29ページ
※6 橋本修二「健康寿命の指標化に関する研究―健康日本21(第二次)等の健康寿命の検討―」表2
※7 厚生労働省 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料 24ページ
※8 橋本修二「健康寿命の指標化に関する研究―健康日本21(第二次)等の健康寿命の検討―」表3

執筆者プロフィール : 山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。