メガホンを取った米林宏昌監督

マイナビニュース編集部に「何故、アニメ映画の声に声優ではなく役者を使うのか」という読者の疑問の声が届いた。確かに、2016年に公開され驚異的なヒットを記録した新海誠監督の『君の名は。』でもメインキャラクター2人の声を務めたのは、俳優・神木隆之介と女優・上白石萌音。2017年でも8月18日公開の『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』では、『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズやTVアニメ『3月のライオン』シリーズなどで知られる新房昭之監督がメガホンを取り、メインキャラクターは菅田将暉や広瀬すずが演じる。こうしてみると、確かにアニメ映画で俳優が起用されることは多いと言えそうだ。

『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)や『思い出のマーニー』(2014年)を手がけてきた米林宏昌氏の監督3作目となる長編映画『メアリと魔女の花』(公開中)もそんな作品の一つだ。本作で描かれるのは、主人公・メアリが森で7年に1度しか咲かない不思議な花"夜間飛行"を見つけたことから始まる、赤い館村に住む少年・ピーターをも巻き込んだ大事件の物語。この2人を演じる杉咲花と神木だけでなく、本作には天海祐希(マダム・マンブルチューク役)、小日向文世(ドクター・デイ役)、満島ひかり(赤毛の魔女役)、佐藤二朗(フラナガン役)、遠藤憲一(ゼベディ役)、渡辺えり(バンクス役)、大竹しのぶ(シャーロット役)と錚々たる俳優陣がキャストとして名を連ねている。なぜここまで徹底して俳優らを起用しているのだろうか、その疑問を率直にぶつけたところ、米林監督からアニメーションと声の絶妙なバランスやその関連性を示す答えをいただけた。また、本作での俳優陣による"声にまつわる見どころ"やその収録エピソードを聞くことができた。

"中間の芝居"をどう演じてもらうか

――なぜアニメ映画の声を俳優さんや女優さんに任せていらっしゃるのか、本作はもちろん、スタジオジブリ時代から彼らを起用してこられた米林監督に単刀直入にお聞きしたく思います。

僕がこれまでにやってきたアニメーションは日常シーンでも結構動くほうで、絵だけでも心情を表現できるよう描いてきました。あんまり過剰に演技を入れると逆に不自然になって浮いてしまう部分もあります。俳優の方たちに演じていただくにあたり普段の実写の芝居とはまた違う感覚を求めることもありますが、実写的な芝居とアニメーション的な芝居、その中間くらいのところでどう演じていただけるかが狙いで、「欲しいな」と思っている部分なんです。

――なるほど、絶妙な加減ですね。どちらかと言えば日常会話っぽくということでしょうか。

息遣いなどはそうですね。誇張してプラスしていった方が良いなと思う部分もあります。発声の仕方としては、舞台をやっているような感じでしょうか。ちょっと張っていかないと合ってこない。例えば、天海さんはこれまで何度か声で演じる機会があったそうで、「いつもは絵の力に負けちゃうところもあるけれど、今回は張っていきます!」と言って収録に臨まれていました。

杉咲はまさに適役だった

――俳優陣でもこれまでの声の仕事の経験から、それぞれで収録の進み具合は変わってくるものなのでしょうか。

本作で言えば、各々でセリフの量は違いますが、メアリだとセリフがたくさんあるので、およそ5日間の収録になりました。

――すごく短いですね!

セリフの量にもよりますが、小日向さんは1日、神木さんに至っては4時間ぐらいで収録しました。

――そうだったんですか!?

天海さんも2日間くらいでしたね。絵を描いている長さに比べると、あっと言う間ではあります(笑)。そんな中でも絵を描いた僕たちの思っていた以上の表現をされていて、そういう意味では声の力というのは大きいなと思いましたね。

――特にこのキャストの演技に驚かされたというものはありますか。

やはり杉咲さんがすごいですね。メアリの声は、まさに彼女が適役でした。リアルな実写の芝居をやってらっしゃるから、生っぽい音が入っている。それが「面白いな」と感じまして。今回は実写ではあまり経験がないかもしれないし、やらないような驚いた時の「ギャー!!」や「ワー!!」といった声だけの演技をしなければいけないということで、すごく工夫して演じてくれました。それとメアリは「イヒヒ」って笑うじゃないですか。杉咲さんも普段からそんな笑い方をされるんですよね。

杉咲の声は「許しちゃう」

――とすると、杉咲さんは最初からすんなりメアリの役に入っていった感じなのでしょうか。

彼女は『思い出のマーニー』では、東京から出てきた彩香という女の子をやってくれたんですが、その時も僕らが思ってもいなかったような感じの演技をしてくださっていて。今回のメアリという女の子は、色んな嘘をついちゃったり勝手にどこへでも行っちゃったり、すごく個性的な子で、「声によっては嫌われてしまうんじゃないか」という思いも実はあったんです。それで彩香の声でやったように、杉咲さんだったらメアリを思いもかけないような感じで演じてくださるんじゃないかと思いました。実際、幾つかのセリフを事前に録ったものを聞かせてもらったんですが、すごくマッチしているし、叫びとか日常ではやらないだろう発声の仕方も上手にやってくれていて「彼女だったらいけるな」と思いました。

――杉咲さんの演技ならば嫌われない女の子になるだろうと思われたのですね。

「イヒヒ」もそうなんですが、許しちゃうような声を持っているから「彼女だと良いな」と。そういう意味では「メアリの声は杉咲さんなしでは考えられない」というくらいになっていましたね。

神木の演技でピーターはだんだんカッコよくなっていく

――一方の神木さんはいかがでしたか。

彼は『借りぐらしのアリエッティ』の時も、12歳の病弱な少年の役をやっていただいていましたけれど、今回は同じ12歳の少年でも全然違うタイプのキャラで、「どういう風になるんだろう」とすごく楽しみにしていたんです。

――(神木さん演じる)ピーターは逞しさもあるキャラですよね。

そうです。神木さんは「今、12歳の声を出せるかどうか」と不安もあったようですが「そこはあまり気にしないでやってください」とお願いしました。12歳であるかどうかよりも……ピーターは屈託のない少年ですけど、そんな中でも少年から青年に至る成長の過渡期、大人になっていく狭間の時期にいる男の子という役を繊細に演じてもらえることに期待しました。実際、ピーターは最初こそ可愛い感じで登場するけれど、だんだんカッコよくなっていく。その感じを上手く演じてくださりましたね。