「低血圧だから朝が苦手なんだよね」といった趣旨のコメントを、誰しも一度は見聞きした経験があるのではないだろうか。低血圧が原因と思われている不調はいろいろとあるが、実際のところ本当に低血圧と関係があるのだろうか。ウィメンズヘルスクリニック東京の知久正明医師にうかがった。

低血圧だと目覚めがスッキリしないというのは正しいのだろうか

拡張期血圧と収縮期血圧

低血圧を理解するには、まず血圧をきちんと理解する必要がある。血圧とは心臓から血液が送り出される際に「血管にかかる圧力」のことを指す。心臓が収縮したときの圧力が「収縮期血圧」で、心臓がふくらんでいるときの圧力が「拡張期血圧」と呼ばれる。別名で収縮期血圧が「最高血圧」、拡張期血圧が「最低血圧」とも表現される。

「若い人の血圧は拡張期血圧の方が上がりやすくなります。それは血管に弾力性があるため圧力が緩衝され、拡張期にその圧力がリバウンドしてくるからです。加齢とともに血管は硬くなるため、高齢者は収縮期血圧が上がりやすくなります」

日本高血圧学会のガイドラインは、最高血圧140mmHg以上、最低血圧90mmHg以上を「高血圧」と定義しているものの、低血圧の指標は明らかにしていない。ただ、WHOによる世界基準では、「最高血圧が100mmHg以下、最低血圧が60mmHg以下」を「低血圧」と定義している。

「日本では1980年代までは和食を中心とした高塩分食が中心であったため、最高血圧は全体的に高めでしたが、塩分を控えるようになった現在では低下傾向にあります。また、収縮期血圧は加齢によって上昇しますが、拡張期血圧は加齢とともに下がっていきます。高齢者の拡張期血圧が低くても『低血圧』とは呼びません」

低血圧者の正確な数値は不明

日本人のおよそ3分の1から4分の1の人が高血圧を患っており、心筋梗塞や脳梗塞などの重大疾病につながるため、一般的にも認知され多くの人が治療にあたっている。一方で、低血圧の患者は若い女性に多く、症状が軽い場合は病院やクリニックに通院しているケースが少ないため、正確な数値が把握できていない。

「低血圧には大きく分けて3種類あります。けがなどによる出血や心臓などの病気が原因で起きる低血圧を『急性低血圧』と言い、緊急を要します。『慢性持続性低血圧』には、原因不明でおこる本態性低血圧やホルモンなどの病気で起こる二次性低血圧などがあり、治療対象となることもあります。突発的に起こるのは『起立性低血圧』。急に立ち上がった瞬間に立ちくらみが起こるのが典型的な症状です。自律神経の障害の場合が多いのですが、神経系などの病気を持っていても起きることがあります」